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PM2.5曝露で脳梗塞予後が悪化

2023年03月17日 05:00

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 微小粒子状物質(PM2.5)は主に化石燃料の燃焼によって発生する粒径2.5μm未満の微小粒子で、これまで呼吸器や循環器系疾患への影響が報告されている。広島大学大学院統合生命科学研究科の田中美樹氏らは脳梗塞モデルマウスを用いた実験を行い、PM2.5への曝露により吸引すると脳内で炎症が生じて、脳梗塞の予後が悪化するとの結果をPart Fibre Toxicol2023; 20: 6)に発表した(関連記事「大気汚染問題を医学の重要テーマに!」)。

CRM28は脳のミクログリアに作用

 近年の研究では、PM2.5などの大気汚染物質への曝露が脳梗塞後の入院期間を延長することや、脳梗塞後1年以内の死亡率を上昇させることが報告されている(Stroke 2017; 48: 2052-2059Stroke 2019; 50: 563-570)。しかし、PM2.5が脳梗塞の予後を悪化させる機序は明らかでない。そこで田中氏らは、脳梗塞モデルマウスを用いた実験でPM2.5が中枢神経系に及ぼす影響を検討した。

 検討ではPM2.5を含む試料として、中国・北京市にある建物の中央換気システムのフィルターから収集した都市大気粉塵CRM28〔可溶性イオン、金属、多環芳香族炭化水素(PAH)、エンドトキシンなどを含む〕を使用した。

 はじめに同氏らは、CRM28を懸濁した生理食塩水100μg/日をマウスに7日間経鼻投与し、嗅球と大脳皮質のミクログリア活性を測定した。その結果、嗅球および大脳皮質においてミクログリア細胞の肥大化と、抗ヒトマクロファージCD68の発現増加が観察された。

 続いてマウスから単離したニューロン、アストロサイト、ミクログリアをCRM28 10μg/mLで処理したところ、ミクログリアでのみインターロイキン(IL)-6、ケラチノサイト由来ケモカイン(KC)、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2といった炎症性分子の増加を特徴とする炎症反応が誘導された。血清サイトカインレベルの変化は認められなかったため、中枢神経のうちCRM28の影響を受けるのは、ミクログリアであることが示唆された。

CRM28投与で脳梗塞後の神経炎症増悪と運動障害悪化

 次に、脳梗塞モデルマウスにCRM28を投与して運動機能の変化を調べた。CRM28 100μg/日、7日間投与したマウスではvehicle投与マウスと比べて、脳梗塞誘発から1日後のロータロッド試験(回転する棒の上を走るマウスが落下するまでの時間を測定する運動機能評価試験)で保持時間(落下までの時間)が大きく短縮し、運動機能の回復も遅かった(図1)。

図1. CRM28投与による虚血性脳卒中誘発後の運動障害

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 田中氏らは以前の研究で、脳梗塞の進行には活性化されたミクログリアによる虚血性脳浮腫の進行が重要であることを報告している(Biochem Biophys Res Commun 2018; 496: 582-587)。今回も虚血によって発生する神経炎症と血管性浮腫、梗塞について調べた。

 Ibal1染色でマウスの虚血領域を評価すると、脳梗塞を誘発した翌日に虚血領域周辺のミクログリア細胞体の拡大が観察され、CRM28 100μg/日の7日間投与後にはミクログリアの活性化ミクログリア(アメボイド型)への形態学的変化と、CD68発現の有意な増加が認められた(順にP=0.0006、P=0.0018)。したがって、CRM28への曝露は神経炎症と虚血性脳浮腫の相加効果により、脳梗塞後の回復の遅れで予後が悪化することが示唆された。

PAHの少ないコア粒子で処理

 CRM28に含まれる物質のうち脳梗塞後の障害に関与しているものを検討するため、CRM28を水と有機溶媒で洗浄し、コア粒子を生成した。コア粒子の金属濃度はCRM28と酷似し、イオン濃度は30~60%に低下したのに対してPAH濃度はCRM28の10分の1未満まで低下していた。

 ICRマウス骨髄由来マクロファージをCRM28、コア粒子、ジクロロメタン抽出物で処理し、炎症反応を評価したところ、コア粒子で処理した場合のみ、PAHの代謝活性を助長する酵素CYP1A1の活性が有意に抑制された。マウスにコア粒子100μg/日を7日間投与しても、活性化ミクログリアへの形態変化は生じず、CD68発現は低いままであった。

 さらに、PAHの受容体で炎症性分子の発現を誘導するAhRをノックアウト(KO)したマウスおよび野生型マウスの骨髄由来マクロファージをCRM28 10μg/mLで6時間処理したところ、野生型マウス由来マクロファージでは、CYP1A1、TNFα、COX-2のmRNA発現が増加したのに対し、AhR KOマウス由来マクロファージでは、CYP1A1の発現は亢進せず、TNFαおよびCOX-2の発現は抑制された(図2)。

図2. 野生型およびAhR KOマウス骨髄由来マクロファージをCRM28 10μg/mLで6時間処理後の発現の変化

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(図1、2ともPart Fibre Toxicol 2023; 20: 6

 CRM28 100µgで7日間処理しても、同様の結果が観察された。これらの結果から、CRM28に含まれるPAHが神経炎症および脳梗塞の予後悪化に関与していることが示唆された。

PAHによる炎症と脳梗塞の炎症が相加的に作用

 以上を踏まえ、田中氏らは「脳梗塞モデルマウスを用いた実験から、PM2.5に含まれるPAHを吸引すること脳内のミオグリアが活性化して炎症を惹起、脳梗塞による神経炎症と相加的に作用し、運動障害の回復を遅延させると考えられる(図3)」と結論。

図3. PM2.5吸入による脳梗塞予後の悪化

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(広島大学プレスリリースより)

 アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患、うつ病および統合失調症などの精神疾患にも神経炎症の関与が指摘されているため、同氏らは「大気汚染はこれらの疾患にも影響を及ぼす可能性がある。PM2.5が脳に及ぼす影響を解明するために、さらなる研究が必要だ」と付言している。

(編集部)

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