睡眠不足で腸内細菌が乱れる機序解明

2023年04月18日 16:13

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　睡眠は生理機能の調節において極めて重要である。睡眠不足は腸内細菌叢の異常（dysbiosis）を誘導し、疾患リスクの上昇に関与することが示唆されているが、詳細な機序は分かっていない。北海道大学大学院先端生命科学研究院の清水由宇氏、教授の中村公則氏らの研究グループは、睡眠時間が短い者ほど腸内自然免疫の作用因子で抗菌ペプチドの一種であるαディフェンシンの分泌量が少ないことを発見。αディフェンシンの分泌量減少が睡眠不足に伴うdysbiosisおよび、免疫系の機能に重要な菌代謝産物である酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸（SCFA）の産生低下に関与していることを明らかにしたとGut Microbes（2023; 15: 2190306）に発表した。

脳腸相関に着目して検討

　近年、睡眠不足は心血管疾患や脳血管障害、がん、糖尿病、うつ病などのリスクとなること、睡眠不足によって誘導されるdysbiosisが疾患リスクの上昇に関与することが報告されている。しかし、睡眠不足が腸内細菌叢の組成に影響を及ぼす詳細な機序は明らかでない。

　これまで研究グループは、中枢神経機能と腸内細菌叢は密接に関連し、相互に影響し合う「脳腸相関」に着目。小腸上皮のパネート細胞が分泌するαディフェンシンは、腸内細菌叢の制御を介し腸内恒常性維持に重要な役割を果たしていること（腸内細菌学雑誌 2019; 33: 129-135）、精神的ストレスを負荷したマウスでは、αディフェンシンの分泌量が減少し部分的にdysbiosisが誘導されることを報告している（Sci Rep 2021; 11: 9915、関連記事「精神的ストレスと腸内細菌の関連機序を解明」）。

　研究グループは今回、中高年における睡眠不足が腸内細菌叢の組成に及ぼす影響を検討した。対象は、北海道寿都町に在住し地域コホート研究DOSANCO健康調査に参加した2,100人のうち、糖尿病、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、肝炎、肝硬変、その他の腸内細菌叢に直接影響する可能性がある消化器疾患のない健康人35人（男性15人、平均年齢53.34歳±5.44、平均BMI 23.07±2.87、平均睡眠時間6.6±0.8時間）。

短眠はHD5分泌の低下と相関する

　自己申告による1日の睡眠時間で、①5時間以下群（1人）、②5時間超6時間以下群（12人）、③6時間超7時間以下群（15人）、④7時間超8時間以下群（7人）に分類。睡眠記録および便検体を用いて、2種類のαディフェンシンのうちHD5分泌量、腸内細菌叢、代謝物との関連を解析した。

　その結果、睡眠時間と便中HD5濃度は正の相関を示し（Pearsonの相関係数r＝0.354、P＝0.037、図1）、睡眠時間が短い者ほどHD5の分泌量が減少していることが示唆された。

図1. 睡眠時間と便中HD5濃度の相関分析

　さらに、短い睡眠時間はSCFAの産生に関与するRuminococcus gnavus（r＝0.504、P＝0.002）、Butyricicoccus（r＝0.484、P=0.003）の減少、便中SCFA濃度の低下に関連していた。これらの結果について、研究グループは「脳腸相関における"睡眠－αディフェンシン－腸内細菌叢"という新たな視点を提示するものだ」と考察している（図2）。

図2. αディフェンシン分泌量の減少を介した睡眠不足における脳-腸-全身相関機序のイメージ

（図1、２とも北海道大学プレスリリースより）

　以上を踏まえ、研究グループは「中高年者を対象とした研究から、睡眠時間が短い者ほどαディフェンシンの分泌量が減少すること、それが睡眠不足に伴うdysbiosisの誘導および免疫系の機能に重要なSCFAの産生低下に関与していることが強く示唆された」と結論。「今後、より大規模な研究でαディフェンシンの分泌誘導を標的とした睡眠障害の予防法や新規治療法の開発が期待される」と付言している。

（小野寺尊允）