糖尿病の根治療法開発に期待

 糖尿病の治療においては、①血糖、血圧、脂質、体重などのコントロール②合併症の発症、進展を予防する③患者の(健康)寿命の延伸を図る―ことが、基本方針と考えられている。その上で、インスリン作用不足に対する治療により、血糖などをコントロールすることが一般的である。こうした中、症状のコントロールにとどまらず完治を目指した研究を行ってきた秋田大学大学院内分泌・代謝・老年内科学講座教授の山田祐一郎氏は、同氏が会長を務めた第62回日本糖尿病学会(5月23~25日)で、これからの糖尿病治療を展望し「根治療法開発に挑戦しよう」と訴えた。

糖尿病に関連する幅広い症状への対応が必要に 

 糖尿病患者の健康寿命を短縮させる主な要因は合併症であり、かつては高血糖による微小血管の傷害に伴う糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症が三大合併症(Triopathy)と考えられていた。現在では大血管が傷害され、脳梗塞や心筋梗塞につながる恐れがあることも認知されている。また、高齢患者では血糖コントロールのためにBMIを下げるとサルコペニアのリスクが上昇し、健康寿命に悪影響を及ぼすといったケースも出てきており、従来のTriopathy以外の合併症にも、幅広く対応することが求められている。

 こうした糖尿病合併症の発症や進展を防ぐためには、食事療法、薬物療法、運動療法という三大治療法により、合併症のリスクをコントロールする必要がある。そうした中、山田氏は症状のコントロールにとどまらず、完治を目指した研究を続けてきた。日本人2型糖尿病患者ではインスリン分泌不足と膵臓のβ細胞量が少ないことが分かっており、同氏はβ細胞に作用してインスリン分泌を促すホルモンであるインクレチンに着目した。

インクレチンの作用機序を利用した合併症対策が有効

 インクレチンには、K細胞から分泌されるGIPと、L細胞から分泌されるGLP-1がある。山田氏は、GIP受容体とGLP-1受容体が欠損したマウスではインスリン分泌が少なく、血糖値が上がりやすいとの実験結果から、インクレチンが正常耐糖能の維持に重要であることを見いだした。また、インクレチン分解酵素であるDPP-4を阻害することで、GIPシグナルとGLP-1シグナルが活性化し、インスリン分泌が促進されることを突き止めた。この機序を利用したのがDPP-4阻害薬である。しかし、DPP-4阻害薬のようなインクレチン薬を投与してもβ細胞自体を増やすことは難しく、同氏はβ細胞を増やすための研究のさらなる進展に期待を寄せる。

 一方で、インクレチンの作用機序を利用して、もう1つの糖尿病の成因であるインスリン抵抗性に対応することは有効だと考えられる。GIPは、脂肪細胞に脂肪を取り込み肥大化させる因子でもあり、GIP受容体欠損マウスでは高脂肪食を与えても太りにくく、脂肪肝が抑制されることも分かっている。さらに、同氏らの研究グループは、GIP受容体欠損マウスが野生型マウスと比べて約100日長く生き、好奇心や運動機能の低下が見られなかったことを発表したBiochem Biophys Res Commun 2019; 513: 974-982)

 GLP-1については、糖尿病だが糖尿病腎症に比較的抵抗性があるモデルマウスのGLP-1受容体を欠損させると、尿アルブミン量や糸球体濾過量、酸化ストレスマーカーの数値が悪化し、糖尿病腎症の進行が見られることが報告されている。一方、糖尿病でGLP-1受容体野生型のマウスにGLP-1受容体作動薬を投与すると、これらの数値が著明に改善したという。

 同氏は「こうした研究が従来の三大治療の1つである薬物療法を発展させるのか、新しい4つ目の治療法につながるのかはまだ不明」としながらも、実臨床に役立つものにしていきたいという。

新しいチャレンジをDM4.0と名付ける

 こうした研究を受けて、山田氏はかつてスタンダードとされたTriopathyへの対応や、従来の三大治療法に捉われず、新たな糖尿病治療法の開発にチャレンジすることを「DM4.0」と名付けた。そして、「医師とコメディカルおよび患者が一緒になって、糖尿病の完治を目指そう」と締めくくった。

(須藤陽子)