メディカルトリビューン

【特別企画】

司会
三田村 秀雄 氏 国家公務員共済組合連合会 立川病院 院長
出席者(発言順)
髙橋 良英 氏 東京医科歯科大学 先進不整脈学 寄附講座准教授
Stuart J. Connolly 氏 Professor, Department of Medicine, McMaster University, Hamilton, Ontario, Canada
髙月 誠司 氏 慶應義塾大学 循環器内科 准教授
夛田 浩 氏 福井大学 病態制御医学講座循環器内科学 教授

 わが国で非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)が使用されるようになって以降、心房細動(AF)患者に対する抗凝固療法は大きく変化した。最近では、AF患者に対するカテーテル・アブレーション(以下、アブレーション)周術期の抗凝固療法にもNOACが使用される機会が増えており、その有効性や安全性についてのデータが蓄積されつつある。

 そこで本座談会では、カナダおよび日本のAF治療のエキスパートである先生方をお招きし、アブレーション周術期や出血リスクの高いAF患者における抗凝固療法について、FⅩa阻害薬アピキサバン(エリキュース®)のデータを踏まえながら討議していただいた。

アブレーションの進歩と術後管理の重要性

三田村 AF患者における心原性脳塞栓症の予防法は、アブレーションの普及や相次ぐNOACの登場で、近年選択肢が増えています。本日は、アブレーション施行やNOAC使用の経験が豊富な先生方とともに、AF患者に対する抗凝固療法について議論して参ります。

 まずは、髙橋先生より、近年のアブレーションに関するトピックをお話しいただきます。

髙橋 AFを中心とした不整脈患者に対するアブレーションは、増加の一途をたどっており、わが国における2017年時点での施行件数は年間7万4,000件を超えています1)。この背景には新たなデバイスの開発、手技の簡略化、施行する医師の増加などがあると思います。また、アブレーションが患者の予後に及ぼす影響についての報告が出始め、例えば、心不全を合併するAF患者を対象にアブレーションと薬物療法を比較したCASTLE-AF試験では、アブレーション群において、全死亡および心不全増悪による入院が少ないことが示されました2)。こうした中、最近では有症候性の患者だけでなく、無症候性の患者にもアブレーションが行われるようになりました。

三田村 アブレーションの良い適応となるのは、どのような患者になりますか。

髙橋 80歳未満で、左房拡大や心房線維化のない発作性AFまたは早期の持続性AFは、良い適応になると思われます。

三田村 有症候性または無症候性という観点から、他の先生方はどのように考えているのでしょうか。

Connolly アブレーションの脳卒中予防効果はいまだ十分なデータがそろっているとはいえませんので、私は無症候性のAF患者に対する積極的なアブレーション治療を今はまだ支持する段階ではないと考えています。

髙月 2017年に発表された米国不整脈学会/欧州不整脈心電学会/欧州心臓不整脈学会/アジア太平洋不整脈学会/ラテンアメリカ心臓刺激・電気生理学会(HRS/EHRA/ECAS/APHRS/SOLAECE)による「AFのカテーテルおよび外科的アブレーションに関するコンセンサスステートメント」では、発作性または持続性の無症候性AF患者にアブレーションを検討する際、リスクベネフィットを入念に評価することなどと記載されています3)。したがって、あらかじめ有効性と安全性が期待できる患者に限定するのが好ましいと思います。

夛田 無症候性AFと診断された患者でも、アブレーション後に倦怠感や呼吸困難が消失したことで、初めて症状を有していたことに気づく患者もいます。そのような患者では、結果的にアブレーションにより症状が改善されることになりますので、術前に症状の有無を判断するのは難しい部分もありますね。

三田村 その他、アブレーションの普及に伴い、実地医家の先生方が術後のフォローを行う機会が増えていくと予想されますが、どのようなことに留意すべきですか。

髙橋 特に知っておいていただきたいのは、術後のAF再発リスクです。発作性AFおよび持続性AFとも、アブレーション後1年以上経過してから再発が認められる患者は少なくないとの報告があります4)。また、AFの再発率は心血管リスク因子を有する患者で高く、アブレーション後に血圧、体重、脂質、血糖、睡眠障害、喫煙、飲酒などのリスク因子を適切に管理することで無再発生存率が改善するとの報告もあります(図1)。こうしたデータを踏まえると、アブレーション後は、抗凝固療法や心電図モニタリングに加えて、心血管リスク因子の適切な管理が脳卒中予防とAFの再発予防に重要であると考えられます。

AFアブレーション後のリスク因子の管理と臨床アウトカム

(Pathak RK, et al. J Am Coll Cardiol 2014; 64: 2222-2231)

アブレーション周術期における抗凝固療法

三田村 では次に、アブレーション周術期の抗凝固療法について、髙月先生にお話いただきます。

髙月 アブレーション周術期には、合併症として血栓塞栓症が懸念され、抗凝固療法が行われます。従来は、出血リスクへの懸念から術前にワルファリンを中断しヘパリンブリッジを行う方法が主流でしたが、近年では、ワルファリン継続投与の有用性が示され5)、標準的な方法となりつつあります。また、ワルファリンだけでなく、NOAC継続投与のエビデンスも蓄積されつつあり、前述のコンセンサスステートメントでは、周術期の抗凝固療法として、幾つかのNOACも含めた経口抗凝固薬の継続投与が記載されています3)。 

三田村 アブレーション周術期の抗凝固療法には、どのような課題がありますか。

髙月 わが国では現在、NOACを選択する場合は手術当日に1回休薬するのみで、ヘパリンブリッジを行わない方法が広く用いられていますが、適切な休薬回数は明らかにされておらず、最適な投与レジメンの確立が求められます。また、アブレーション周術期の血栓塞栓症以外の重篤な合併症として、心膜液貯留や心タンポナーデなども挙げられます。心タンポナーデは、経口抗凝固薬の継続投与を行う場合だけでなく、ヘパリンブリッジを行う場合でも起こりうる合併症ですが6)、抗凝固薬が効いている状況では出血量が増える可能性があり、注意が必要です。

 現時点ではまださまざまな課題がありますが、将来的にFⅩa阻害薬に対する中和薬が開発されれば、周術期における抗凝固薬の使い方も変わってくるのではないかと思います。

三田村 Connolly先生は、AF患者におけるアブレーションについて、どのような意見をお持ちですか。

Connolly アブレーション後には一定の頻度で微小脳病変が出現することが知られています。こうした病変の意義は不明ですが、将来的に認知症につながる可能性が否定できませんので、より長期の検討が必要だと思います。

AFと腎機能低下は密接に関連

三田村 AF患者は高齢者が多く、腎機能が低下していることも少なくありません。ここで、夛田先生から慢性腎臓病(CKD)とAFの関係についてお話いただきます。

夛田 CKDは、AFの発症リスクであることやAF発症後の予後と関連することが知られています。例えば、CKDが進行するとAFを発症しやすくなり、さらにAFを併発し、CKDが進行すると死亡率が高まることが示されています7)。また、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下に伴い全死亡率は有意に増加することが報告されています(P<0.0001、Log-rank検定、図2)。

腎機能ステージ別のKaplan-Meier累積生存曲線

(Boriani G, et al. Sci Rep 2016; 6: 30271)

 AFの入院患者では、腎不全が年齢75歳以上、がん、肺疾患などと並ぶ全死亡のリスク因子であるとの報告もあり8)、腎機能低下はAF患者における全死亡の主要なリスク因子と考えられます。

髙橋 われわれは、アブレーションを受けたAF患者の腎機能を測定し、術後1年以内にAFを再発しなかった患者では、再発した患者と比べて腎機能が改善することを報告しています9)。われわれの研究を含めたいくつかの研究により、現在は、AFが腎機能低下に関与し、両者は相互に影響を及ぼし合って悪循環を形成していると考えられています。

アピキサバンのエビデンスと実臨床における課題

三田村 では、アピキサバンの大規模臨床試験であるアリストテレス試験をConnolly先生に紹介していただきます。

Connolly 同試験では、非弁膜症性AF患者1万8,201例を対象に、アピキサバンとワルファリンの有効性と安全性が比較されました。その結果、有効性の主要評価項目である脳卒中または全身性塞栓症の発症率、安全性の主要評価項目である大出血の発現率は、ともにアピキサバン群で低値でした10)。また、先ほどから話題に上がっているように加齢と腎機能は関連し、高齢になるほど腎機能が低下することは知られていますが11)、同試験では年齢層別12)や、腎機能別(図3)のサブグループ解析※1においても、アピキサバンの有効性を示すエビデンスが得られています。

国際共同第III相臨床試験:アリストテレス試験の腎機能別のサブグループ解析

(Hohnloser SH, et al. Eur Heart J 2012; 33: 2821-2830より一部改変)

【禁忌(次の患者には投与しないこと)】(抜粋)
〈非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身 性塞栓症の発症抑制〉
腎不全(クレアチニンクリアランス(CLcr)15mL/min未満)の患者[使用経験 がない。]
【使用上の注意】(抜粋)
1. 慎重投与(次の患者には慎 重に投与すること)
(3)腎障害(非弁膜症性心房細動患者はCLcr15~ 50mL/min、静脈血栓塞栓症患者はCLcr30~50mL/min) のある患者[出血の危険性が増大するおそれがある。]

三田村 アピキサバンがこのような特徴を示したことについて、どのような理由が考えられますか。

夛田 1つの理由として、アピキサバンは腎排泄率が比較的低く、薬物動態プロファイルが腎機能に左右されにくい可能性13)が考えられると思います。

三田村 実臨床では、高齢者や腎機能低下例に対して、NOACのunder-doseがしばしば問題となります。例えば、アピキサバンの通常用量は1回5mgを1日2回投与ですが、80歳以上、体重60kg以下、血清クレアチニン値1.5mg/dL以上の3項目のうち、2項目以上を満たす場合には1回2.5mgを1日2回投与に減量することが規定されています。しかし、1項目でも該当すれば、出血を懸念して低用量が選択されることが少なくありません。こうしたunder-doseは、虚血性脳卒中の発症リスクを高める可能性があり、十分な注意が必要です。

Connolly 確かにその通りだと思います。ただし、現時点では減量基準を満たさないリスクが高めの症例に対し、適切な投与法が検証されていないため、今後、長期にわたって投与経験を積み重ねることで、より安全な方法が明らかになっていくものと思われます。

三田村 NOACは臨床でも広く用いられるようになってきたものの、アブレーション周術期やリスクが高めの患者などに対する適切な投与法を検証していく必要がありますね。先生方、本日はありがとうございました。

※1アリストテレス試験で計画されていたサブグループ解析

432JP18PR0199313/ELQ72I013A

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