高齢者にとって寒い日の入浴は注意が必要だ。 日本で入浴死の発生頻度は世界と比べても高く、年間約1万9000人に上ると推測する報告もある。鹿児島大学大学院の林敬人教授(法医学)は、気温が低いほど浴室内突然死(入浴死)の発生頻度が高まることを確認した。 ▽脳や心臓の虚血、不整脈で 入浴死が起こるのはどのような場合だろうか。「冬季の居間、脱衣所、浴室、浴槽内の温度差やそれに伴う血圧変動、いわゆるヒートショックにより、脳や心臓の虚血、不整脈を起こして亡くなるケース。気を失い、溺れて亡くなることが多いと想定されます。ただし、法医解剖で死因を正確に突き止められている事例は少ないのが実情です」 ▽「危険」な日は入浴中止も そこで林教授は、入浴死に関わる可能性のある要因のうち、客観的に把握できる「環境気温(最高気温、最低気温、平均気温、日内の気温差)」に着目。鹿児島県各地域で発生した入浴死と発生日の環境気温との関係を検討した。 対象は、県内で2006~19年の14年間に入浴死した2689人。約90%が65歳以上の高齢者で、12~2月の冬季に集中していた。 冬季の最高・最低・平均気温が低いほど、また1日の気温差が大きいほど、入浴死の頻度が高くなることが分かった。さらに、入浴死が発生しやすい各環境気温「危険な気温」を特定。危険な気温は地域により大きな違いがあった。 入浴死のリスクを〔1〕最高気温が危険な気温以下になる〔2〕最低気温が危険な気温以下になる〔3〕日内の気温差が危険な気温差以上になる―の3段階に分類。三つそろう日は「危険」、二つの日は「警戒」、一つや無しの日は「注意」とした。今年11月から、3段階で表示した県内15地域の「入浴時警戒情報」を放送局と共同で発信。地方紙でも掲載されている。 「『危険』の日は入浴の中止も検討していただきたい。『警戒』の日に入浴する際は浴室や脱衣所を暖める、湯温は41度以下に設定する、あらかじめ同居者に声を掛ける、などの対策が望まれます。県外に住む人は、日本気象協会が発表している『ヒートショック予報』を参考にしてください」と林教授は呼び掛ける。(メディカルトリビューン=時事) ◇ ◇ 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の所在地 〒890―8544 鹿児島市桜ケ丘8の35の1 電話099(275)5310