「自覚症状ないから放置して大丈夫」ー生活習慣病の治療、腰が重い人の心理

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 高血圧、脂質異常症、糖尿病、心臓病などの生活習慣病の疑いがあっても、医療機関をすぐ受診しないなど、腰が重い人は少なくないという。大阪大大学院人間科学研究科(大阪府吹田市)の平井啓准教授にその背景や、家族の向き合い方などを聞いた。

▽本人と周囲のすれ違い

 生活習慣病などの慢性疾患では、家族が受診を勧めても本人が取り合わないことがある。このすれ違いは「見えている世界が違うために起こるのです」と平井准教授。

 治療で将来のリスクに備えることが合理的な行動と考えて家族が助言しても、患者は常に合理的な選択をするとは限らない。これは、人の意思決定がさまざまなバイアスの影響を受けているためだという。

 通常、人は得をすることよりも損をすることに敏感で、特に生活習慣病のように治療が長期化するものは、費用や時間、通院の負担などのコスト(損)を回避する行動を取りやすい。

 この思考の習性は「損失回避性」と呼ばれる。「自覚症状がないから放置しても大丈夫だろう、という『望み』に引っ張られ、早期受診や治療という合理的な判断ができなくなってしまうのです」

▽治療による「今の利得」を強調

 人は将来の利益よりも今の利益を優先し、将来の損失を割り引いて考える傾向がある。家族がこの心理を理解しないまま患者を説得すると、衝突が起こりやすい。そのため、「治療を先延ばしにしたい患者本人の気持ちを受け止めることが重要です」。

 また、未治療による将来的な損失(合併症や死亡リスクなど)は軽く考えられてしまう。そのため、「治療を受けることによる、現在の利得を強調する方が受け入れられやすくなります」。

 例えば、「睡眠時無呼吸症候群であれば、将来の脳卒中などの心血管疾患のリスクよりも、『今ぐっすり眠れる』という利得の方が意思決定に影響を及ぼしやすい。このような患者の心理を意識することで、コミュニケーションのすれ違いが起こりにくくなります」と平井准教授はアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)

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 大阪大大学院の所在地 〒565―0871 大阪府吹田市山田丘1の2

電話06(6877)5111(代表)

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