鉄欠乏性貧血は,体内に酸素を運搬するヘモグロビン(ヘムとグロビンからなる)のヘムの構成成分である鉄が不足することにより,ヘモグロビンの合成が低下した状態をいいます。貧血の中で最も頻度が高く,貧血患者の約90%以上を占め,貧血といえば鉄欠乏性貧血を指します。 鉄の欠乏の原因は3つ挙げられます。(1)鉄の供給が不足したとき:極端な偏食や過激なダイエット,胃腸障害による摂取量の不足や,胃切除や吸収不良症候群などによって吸収が障害される(2)鉄の需要が増大したとき:成長,発育期,妊娠期に鉄の需要が増大して鉄欠乏を起こしやすい(3)鉄の喪失が過剰になったとき:生理的に1日約1~1.5mgの鉄が便,尿,汗とともに排泄され,成人女性では,さらに月経により排泄され,それに加えて胃・十二指腸潰瘍やがん,痔などによる消化管出血,または子宮筋腫などで鉄の喪失が起こります。 鉄欠乏性貧血の食事療法では,造血と造血機能を高めることを原則とし,高エネルギー,高蛋白質,鉄を多く含む食品を摂取して,全身の栄養を高めることを基本方針とします。ポイントとしては,以下が挙げられます。(1)鉄を多く含む食品を積極的に取る:レバー,肉,魚などは吸収の良いヘム鉄を多く含むので,これらの動物性食品から取るようにします(吸収率は,ヘム鉄で15~25%,非ヘム鉄で2~5%)(2)ビタミンCを多く含む食品を取る:ビタミンCは非ヘム鉄を吸収されやすい二価の鉄に換える働きがあるので,ビタミンCの多い食品を取るようにします(3)動物性蛋白質をしっかり取る:肉類,魚介類などの動物性蛋白質にはシステインなど,還元作用のあるアミノ酸を含み,三価の鉄を二価の鉄に変えて吸収しやすくします(4)造血作用を促進する栄養素(ビタミンB2,B6,B12,葉酸,銅)は,貯蔵鉄の動員作用があるので,組み合わせて取るようにします(5)鉄の吸収を良くするためには,胃酸の十分な分泌が必要なため,早食いをやめて,ゆっくり十分に咀嚼して取るようにします。また,楽しく食べることが胃液の分泌を促します。香辛料(ショウガ,ワサビ,カレー粉,唐辛子など)や酢,梅干し,レモンなどのかんきつ類など,酸味の強い食品を利用しましょう。