「どこで、どのように死を迎えるか」―余命わずかと診断されたがんの終末期は、その判断を迫られる時期でもある。近年、終末期の治療について事前に決めておこうとする動きが広がっており、その一環として、主治医が患者やその家族に「もし心臓が止まったり、呼吸ができなくなった場合に、心肺蘇生術(心臓マッサージや人工呼吸など)で延命を試みることを希望するか」を確認することが多い。医療現場では「心肺蘇生術を試みない」という方針は英語の"do not attempt resuscitation"の頭文字をとって「DNAR」と呼ばれている。ところが、半田市立半田病院(愛知県)麻酔科の杉浦真沙代氏が、同院の救命救急センターに心肺停止で搬送されてきた終末期のがん患者の記録を調べたところ、「DNAR」の意思表示をしていた患者の全てに心肺蘇生術が行われていたことが分かったという。6月17~18日に京都市で開かれた日本緩和医療学会の会合で同氏が報告した。なぜ、患者の希望に反して延命治療が行われるのか―。その背景には、患者の家族などに「救急車を呼ぶ行為が心肺蘇生の希望を意味している」ということが認識されていない現状があるようだ。