米・Tulane UniversityのXuan Wang氏らは、米国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いて米国成人のコーヒー摂取のパターンを午前摂取型と終日摂取型に分類し、全死亡、心血管疾患(CVD)およびがんによる死亡リスクをコーヒー非摂取群と比較。その結果「午前摂取群では全死亡とCVD死のリスクが有意に低かったが、終日摂取群では非摂取群と有意差はなかった」とEur Heart J(2025年1月8日オンライン版)に報告した。 コーヒーの健康ベネフィットは認められている コーヒーは世界で最も広く消費されている飲料の1つであり、中等量のコーヒー摂取は2型糖尿病やCVD、死亡リスクの低下と関連することが報告されている。米国の2015~20年の食事ガイドラインでは、健康的な食事パターンの一環として中等量のコーヒー摂取を推奨している(Adv Nutr 2016; 7: 438-444)。しかし、コーヒーの大量消費(1日3~5杯以上)と死亡リスクとの関連については依然、議論が分かれている。 Wang氏らは今回、1998~2018年のNHANESデータ(成人4万725例)の食事記録からコーヒーの摂取パターン別に午前摂取型/群(1万4,643例、36%)、終日摂取型/群(6,489例、16%)、非摂取群(1万9,593例、48%)を同定した。24時間思い出し法(24-hour recall)で把握した食事パターンのデータに基づき、午前4時~11時59分以外ではコーヒーをめったに飲まない人を午前摂取型、時間に関係なくコーヒーを飲む人を終日摂取型とした。 終日摂取群の全死亡・CVD死リスクは非摂取群と変わらず 中央値で9.8年(四分位範囲9.1年)の追跡期間中に、4,295例の死亡が記録された。このうち1,268例がCVD死、934例ががん死だった。 年齢、性、民族、収入、教育レベル、糖尿病や高血圧、脂質異常症、紅茶やカフェイン入り炭酸飲料、コーヒーの種類(カフェイン入り vs. カフェイン抜き)、睡眠時間、不眠など多数の因子を調整後の全死亡とCVD死のリスクは、コーヒー非摂取群に比べ午前摂取群で有意に低かった〔順にハザード比(HR)0.84、95%CI 0.74~0.87、同0.69、0.55~0.87〕が、終日摂取群では差は見られなかった(同0.96、0.83~1.12、同1.14、0.83~1.56)。がん死については、午前摂取群、終日摂取群のいずれも、コーヒー非摂取群と差はなかった。 午前の摂取によりコーヒーの抗酸化作用が増強 摂取量との関連では、まず全コホートを対象とした解析を行い、コーヒー摂取量が多いほど全死亡とCVD死のリスクが低いことを確認した(全て傾向性のP<0.01)。 次に、摂取量と摂取パターンを合わせた解析を行ったところ、非摂取群に比べ、午前摂取群では0杯超~1杯/日、1杯超~2杯/日、2杯超~3杯/日、3杯超/日のいずれの群でも全死亡リスクが有意に低かった(順にHR 0.85、95%CI 0.71~1.01、同0.84、0.73~0.96、同0.72、0.60~0.86、同0.79、0.65~0.97、線形傾向性のP<0.001)が、終日摂取群ではコーヒー摂取量と全死亡リスクに有意な関連は認められなかった。同様の交互作用のパターンはCVD死についても観察されたが、有意差は見られなかった。 以上の結果を踏まえ、Wang氏らは「われわれの知る限りコーヒー摂取のタイミングと死亡リスクの関連を検討した研究はこれが初めてだ」と指摘。今回の結果を説明する機序として、①午後や夕方以降にコーヒーを摂取することでメラトニンのピーク産生量が約30%低下し、その結果、概日リズムが乱れる、②コーヒーによる健康ベネフィットはコーヒーに含まれる生理活性物質の抗酸化作用によるが、炎症促進性のサイトカインや炎症性マーカーにも概日パターンがあり午前中の値が高い。したがって、1日のコーヒー摂取量が同じでも抗炎症作用は午前中に摂取した場合の方が大きい―と考察している。 (医学ライター・木本 治)