キノロン系抗菌薬点眼の使い過ぎにNO! 結膜炎に対する抗菌薬の適正使用を 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立国際医療センターAMR臨床リファレンスセンターは5月2日付で、結膜炎に対する抗菌薬点眼治療の適正化を呼びかけるNewsletterを公表。キノロン系抗菌薬点眼の使い過ぎが問題になっているとし、眼科領域における抗菌薬適正使用をテーマに関西医科大学病院眼科角膜センターセンター長の佐々木香る氏が日本の現状や課題について解説した。(関連記事「手術別に抗菌薬の適正使用指針示す」) 処方の90%超が第四世代キノロン系 Newsletterによると、2020年度の抗菌点眼薬販売量の実に93.1%を第四世代キノロン系が占めている。眼科領域の抗菌薬適正使用について、佐々木氏は「周術期や結膜炎治療におけるキノロン系抗菌薬点眼の過剰使用が、大きな課題となっている」と指摘。その要因として、使いやすさや適応菌種の多さに加え、公的医療保険制度の下に高額な薬剤でも処方しやすいこと、眼内炎訴訟での抗菌薬使用法をめぐる敗訴などを挙げている。 同氏は、経口薬や注射薬の血中濃度と比べ点眼薬は極めて高濃度の製剤である点にも言及。一例として、レボフロキサシンの注射製剤の最高血中濃度は9μg/mL、経口製剤は8μg/mLであるのに対し、点眼製剤は3,000~1万5,000μg/mLと、注射製剤や経口製剤の300~1,500倍もの高濃度に達するという。 キノロン系抗菌薬は、世界保健機関(WHO)が提唱するAWaRe分類では限られた疾患や適応にのみ使用が求められる「Watch」カテゴリーに含まれる。しかし、眼科領域疾患では結膜炎や周術期など多くの場面で処方されている。眼科手術予定患者の結膜から常在菌を分離・培養し、各種キノロン系抗菌薬に対する感受性を検討したところ、極めて感受性が低かったとの報告がある(J Ocul Pharmacol Ther 2021; 37: 84-89)。同氏は「キノロン系抗菌薬に耐性を獲得した場合、眼科領域では特に他の抗菌薬の選択肢が少ないため、医療現場において慎重な使用が求められる」と警鐘を鳴らす。 抗菌薬点眼が有効なのは前眼部感染症のみ 眼科領域で抗菌薬治療を要する感染症は、①前眼部感染症(角膜炎・結膜炎・眼瞼炎)、②付属器感染症(眼窩蜂窩織炎・涙道炎)、③眼内炎-に大別される。これらのうち前眼部感染症は点眼が有効だが、付属器感染症は点眼による薬効成分の到達が不十分で、全身投与が中心となる。眼内炎では点眼と全身投与のいずれでも十分な濃度が得られないため、手術が主体となる(図1)。これらのうち、結膜炎では「眼科でも他科でも、慢性結膜炎としてキノロン系抗菌薬点眼が長期投与されている患者が非常に多い」と、佐々木氏は指摘する。同氏は、結膜炎にキノロン系抗菌薬点眼を使用しても症状が改善しない紹介例を経験しており、その中にはアレルギーやウイルス性、薬剤毒性、涙小管炎などが隠れているケースが少なくないという。 図1. 眼科領域の感染症治療における抗菌薬の出番 これらの疾患はキノロン系抗菌薬点眼では改善しないため、特に高齢者や乳幼児で長期投与になりがちである。その結果、「高齢者の結膜炎の主な起炎菌であるコリネバクテリウムは、高度のキノロン耐性が認められている。さらに、キノロン系抗菌薬点眼の長期投与により、選択的にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が増加することも指摘されている」と同氏は注意を促している。 充血と眼脂のみで抗菌薬を投与すべきではない さらに、結膜炎は必ずしも細菌により引き起こされる感染症とは限らず、結膜炎の主な症状である充血と眼脂があっても細菌性結膜炎とは限らない。最近では気道感染症などに対し、「発熱のみで抗菌薬を投与しない」ことが浸透していることを踏まえ、佐々木氏は「充血と眼脂のみで抗菌薬を投与すべきではない」と注意喚起している。 同氏は、アレルギー性やウイルス性の結膜炎と細菌性結膜炎では眼脂の性状が異なることから、眼脂の観察が重要と指摘。前者は涙腺や副涙腺からの分泌物が主体の透明でサラサラした漿液性の眼脂であるのに対し、細菌性結膜炎では、好中球主体の黄色いドロドロした膿性眼脂が見られる。そのため、ある程度は視診で鑑別できるという(図2)。 図2. 結膜炎の原因別に見た眼脂の性状 (図1、2ともAMR臨床リファレンスセンターNewsletterより引用) 鑑別においては、眼脂を採取し塗抹検査や培養検査を行うことも有用である。特に塗抹検査は細菌の有無や菌量、好中球や貪食像などが観察でき、細菌の存在により感染が成立しているのか、抗菌薬が必要なのかを判断する重要な手がかりとなる。同氏は「眼脂の採取は眼科医しかできないわけではなく、診療所や高齢者施設でも可能。目の表面から眼瞼にこぼれた眼脂を採るだけで、診断の参考になる」とし、「充血で紹介される症例のうち、キノロン系抗菌薬点眼が適切なケースは半数強程度」と言う。 その上で、同氏は「充血や眼脂の有無だけで判断せず、視診や塗抹検査などの所見も参考にしながら抗菌薬の不適切使用を減らすことが求められる。また漫然と抗菌薬点眼を使用せず、全身投与薬と同様に適切な症例に適切に使用することが大切」と訴えている。 (編集部・関根雄人) 〔変更履歴2025年5月12日〕血中濃度に関する誤りを修正しました 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×