乳児が入浴時の首浮き輪で溺水、運動発達が退行

7件目の類似事例

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 日本小児科学会は7月29日、入浴時の首浮き輪使用中に溺水、一時的に回復したものの後日、吸引性肺炎と診断され運動発達が退行した生後6カ月男児の事例についてInjury Alert(傷害速報)類似事例を発表。経過を報告するとともに、あらためて用途の確認および適正使用を消費者に周知・啓発するよう求めている。(関連記事「幼児の浮き輪誤使用で溺水!」)

洗髪で目を離した間に溺水

 首浮き輪は、生後1カ月から体験可能なスポーツ知育「ベビープレイスイミング」の実践ツールとして英国で開発されたものだが、これまで発表されている首浮き輪による溺水の事例は親との入浴時など、自宅の浴槽で使用中に起きている。

 今回の事例も、2025年1月に父親と入浴していた生後6カ月男児。X日午後9時ごろ父親が男児に首浮き輪を装着し浴槽内に浮かべ遊ばせていた。男児は機嫌よく遊んでいたが、父親が自身の洗髪のために数分、目を離した間に首浮き輪の上で脱力し、呼吸をしていないような状態で顔色不良、全身蒼白となっていた。男児の体勢に大きな変化はなく、安全ベルトも装着されていた。浴槽の水深は、男児の足が底に届かない程度で、首浮き輪の空気の入り具合は適切だった。

 父親は居間にいた母親を呼びつつ、男児に人工呼吸を行った(胸骨圧迫は未実施)。母親が駆け付けた時点で、男児は自発呼吸をしており、その後も苦しそうな呼吸をして首の支えも弱かったが、自宅で様子を見た。

首浮き輪は「子供を1人で待たせるための補助具ではない」

 X+1日の午前中、男児は一時的に回復したかに見られたが、午後4時ごろから再度苦しそうな状態となったため医療機関Aを受診。not doing wellと判断され、午後5時ごろに医療機関Bを紹介受診した。

 受診時、呼吸数36回/分、酸素飽和度(SpO2)90%(室内気)、心拍数140回/分、血圧104/49mmHg、意識レベルGlasgow Coma Scale 13点(E4V4M5)、体温37.1℃だった。身体診察では、肋骨弓下および鎖骨上窩に陥没呼吸を認め、咽頭に分泌物の貯留音を聴取し、両肺野で肺胞呼吸音の減弱を認めた。血液検査では、白血球数1万4,900/μL、C反応性蛋白5.07mg/dLと炎症反応の上昇を認めたが、静脈血液ガス検査を含め、その他の特記すべき異常所見を認めなかった。胸部単純X線検査では、両肺野にびまん性の透過性低下を認め、胸部CT検査では、両肺野にびまん性のすりガラス影および浸潤影を認めた。

 以上の所見から、溺水に伴う吸引性肺炎と診断し、入院による抗菌薬治療を開始。入院後2時間で呼吸数50~60回/分と頻呼吸を認めたため、高流量酸素療法(HFNC)を開始した。

 X+3日目およびX+8日目に施行した頭部 MRI検査では、低酸素性虚血性脳症を示唆する所見は認めず、X+15日目に退院。男児は生後5カ月で定頸が確認され寝返り(右回りのみ)もしていたが、退院時点では定頸や寝返りができず、運動発達の退行と判断した。事故から1カ月時点においても定頸には至っていない。

 首浮き輪による溺水に関する傷害速報は、2012年2月および3月の事例が発表されて以降、7件目の類似事例。国内では首浮き輪が自宅浴槽で使用されるケースが多いが、メーカーも販売業者もプレイスイミングにおけるツールとしている。

 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会は、首浮き輪の用途について、浴槽で「子供を1人で待たせるための補助具ではない」とし、「洗髪などで子供から目を離す時間があると、数分でも重大な事故につながる可能性がある。目を離す状況がある場合には、首浮き輪を使用しないよう保護者に啓発する必要がある」と注意を促している。

(編集部・小暮秀和)

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