JDDW 2025:適切な高危険群の設定と管理で早期発見・予後改善へ

第63回 日本消化器がん検診学会大会 会長
飯田市立病院 消化器内科診療技幹・内視鏡センター長

岡庭 信司 氏

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 日本消化器がん検診学会では、「がん検診における適切な高危険群の設定と管理」をJDDW 2025のテーマとして掲げました。これは、従来の臓器別検診の限界を乗り越え、より横断的で包括的な検診の在り方を提案する重要な試みです。

 例えば、BRCA1・2遺伝子の異常を持つ方は、乳がんや卵巣がんだけでなく、膵がんや前立腺がんのリスクも高くなります。これまでのように臓器ごとに対象を限定して検診を行っていると、こうした共通リスクを見逃してしまう可能性があります。私たちは今、がんを「臓器単位で捉える時代」から「リスク単位で捉える時代」への転換点にいるのです。

 特に注目されるのが膵がんです。膵がんの死亡率は高く、男女ともに年齢調整死亡率が上昇している唯一のがんです。罹患率が低く、科学的根拠が確立されたがん検診が存在しない状況が続いています。しかし、60歳以上を対象に超音波検査を行った場合、一般的ながん発見率の2倍以上になるというデータもあり、適切な年齢設定により効率的な拾い上げが可能であることが示唆されています。

 現時点で遺伝子検査が保険適用されていない日本では、欧米のようなアプローチは取りづらい面があります。しかし、私たちは画像診断における豊富な経験を生かし、膵囊胞や主膵管拡張などの形態的所見から高リスク者を抽出するという独自の道を模索しています。こうした日本ならではの検診戦略は、今後の国際的な議論にも貢献できるはずです。

 JDDWの大きな意義は、5学会が一堂に会し、スクリーニングから経過観察、精密検査、治療まで一貫して討論できる点です。内科と外科の視点が融合することで、近年注目される内視鏡と腹腔鏡を組み合わせたハイブリッド治療など、協調的な治療戦略も議論されます。

 注目セッションは、パネルディスカッション6「膵がん検診を視野に入れた高危険群の再設定と管理」です。膵がんは診断が難しく、科学的根拠に基づく検診体制も確立していないため、今後の課題が多いがんです。会長賞を受賞された藤田医科大学の植野さやか先生は、遺伝性腫瘍症候群に対する包括的なサーベイランス外来の実践について発表される予定です。直前には同氏による「遺伝性腫瘍におけるスクリーニングとサーベイランス」という特別講演もあり、連続して聴講することで、高危険群管理に対する理解がいっそう深まる構成となっています。

 現地にお越しになる先生方には、ぜひセッション後のディスカッションやポスター会場での交流を楽しんでいただきたいと思います。やはり、現地での出会いや会話には他に代え難い学びがあります。一方、日々の診療で現地参加が難しい方々には、ウェブ配信の講演も充実しています。教育講演やインターナショナルセッションを含め、いつでも視聴できるオンライン環境を最大限活用していただければと思います。

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