世界の公衆衛生をリードするCDC、ワクチン懐疑派・ケネディ長官の介入で機能不全〔読売新聞〕

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 世界の公衆衛生対策を先導する役割を期待されている米疾病対策センター(CDC)で、大きな混乱が生じている。ワクチン懐疑派のロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官がワクチン政策での対立を理由にCDC所長の解任を決め、別の幹部が辞任。感染症対策の指揮官が不在となり、機能不全となっている。

 解任された所長は、スーザン・モナレズ氏。連邦政府機関に長年勤めたベテランの科学者だが、反ワクチン団体創設者でもあるケネディ氏と激しく対立。モナレズ氏は所長着任から1か月もたたない8月27日、解任が発表された。

 CDCは1946年に設立され、感染症の監視や予防を主導し、ワクチン開発を進めてきた。しかし、ケネディ氏がトランプ政権で厚生長官に就任すると、ワクチンの安全性に疑問を投げかける発言を連発。6月にはワクチン接種の推奨などを検討するCDCの諮問委員会の委員17人を全員解任し、ワクチン懐疑派の新委員を選んだ。

 モナレズ氏は4日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し、ワクチン懐疑派の委員の判断を追認するようケネディ氏から圧力を受けたと明らかにした。さらに、研究の現場への政治的介入に反発し、別のCDC幹部3人が辞任する事態になった。

 米国では今年、麻疹(はしか)の感染者数が1400人を超え、33年ぶりの水準に達し、子どもの死者も出ている。はしかの予防にはワクチン接種が有効とされるが、感染者はワクチン未接種の人が多い地域で拡大している。ワクチン懐疑派の主張が影響している可能性もある。

 CDCはこれまで、新型コロナウイルスなどの感染症対策で各国の政府や研究機関と連携し、主導的な役割を果たしてきた。CDC内部で混乱が続く事態には懸念の声が上がっている。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は7日、X(旧ツイッター)への投稿で「CDCの活動は計り知れないほど貴重であり、守られなければならない」と訴えた。

 共和党内の一部にケネディ氏の資質を問う声は出ているが、トランプ大統領の岩盤支持層にはワクチン懐疑派が多い。ケネディ氏は4日、米議会上院の公聴会でCDCを改革するためとして自身の「続投」を宣言しており、混迷はさらに深まる可能性が高い。

(2025年9月9日 読売新聞・ワシントン=中根圭一)

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