幼児用座席乗車中の自転車転倒で頭蓋内損傷

1歳3カ月男児、日本小児科学会が注意喚起

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 東京消防庁の救急搬送データによると、2011~16年の自転車事故による救急搬送2,607人のうち、幼児用座席付き自転車に子供を乗せて使用中にけがをしたのは1,349人(52%)。受傷の原因は、転落・転倒が1,224人(91%)で、1、2、3~4歳の年齢層でそれぞれ約30%を占める。日本小児科学会は、幼児用座席乗車中の自転車転倒により頭蓋内損傷を負った1歳3カ月男児の事例についてInjury Alertを発表。ヘルメット、高い背もたれ付き幼児座席(後部設置)の利用およびシートベルト着用の徹底を呼びかけている。(関連記事「スチーム式加湿器で手指を熱傷、設置場所に注意!」)

バランスを崩して右側頭部を地面に打撲

 自転車用幼児座席においては、頭部外傷リスクとヘルメット着用の重要性が指摘されていることに加え、高い背もたれ付き幼児座席(後部設置)+シートベルトの有効性が報告されている。国内では、2023年4月の改正道路交通法の施行により、自転車の全ての利用者にヘルメット着用が努力義務化されたものの、着用率は全国平均 17%にとどまっているのが現状だ。

 事例は、2021年12月の午後3時ごろ、自転車用前形幼児座席に乗った1歳3カ月男児(写真)。母親は、ヘルメットおよびシートベルトを着用していない男児を自転車用前形幼児座席に乗せ、歩道のないコンクリートの坂道を手押しして上っていた。その際、バランスを崩して母親が手押ししていた側とは反対の右側へ自転車が転倒。男児は右側頭部を地面に打撲、受傷後に右側頭部に皮下血腫が認められたため、母親が救急要請した。救急搬送中、男児の意識は清明だったが1回嘔吐した。

写真.母親が使用していた自転車とチャイルドシート

 午後3時42分、医療機関に到着。男児の意識は清明だった。右側頭部に長径6cmの皮下血腫が認められたが、全身診察では他に外傷は認められなかった。

 来院後、徐々に意識レベルが低下し、午後4時25分Glasgow Coma Scale(GCS):開眼機能(E)1、言語機能(V)1、運動機能(M)3を呈し、嘔吐と徐脈も認められた。

 午後5時1分、右瞳孔散大と右半身の間代性痙攣が出現し気管挿管処置を実施。頭部CT検査ではmidline shiftを伴う右硬膜下血腫、硬膜外血腫、右側頭骨骨折が認められ、午後5時49分、緊急開頭血腫除去術を施行した。

 手術後X+12日まで集中治療管理を要し、X+21日目に退院した。退院後は明らかな麻痺等の合併症はなく、術後の運動、発達の評価を目的としたリハビリテーションを継続している。

幼児健診などで周知、注意喚起を

 幼児用座席付き自転車に子供を同乗させる場合、スピードを出していたり車などをよけたりする際の事故だけでなく、バランスを崩しやすい状態や高さのある座席から固いアスファルトに転落することにより頭蓋内損傷や骨折などの重症な外傷が発生する可能性がある。また、自転車を手押ししている側とは反対側に転倒する今回のような事例では、大人が子供の身体をかばう行動が取りにくい上、子供は頭部の比率が大きいため、自転車から転落、転倒した場合に頭部への衝撃が強いことが推測される。

 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会は予防策として、ヘルメット、高い背もたれ付き幼児座席(後部設置)の利用およびシートベルト着用の徹底、安全基準を合格したBAAマーク付き幼児2人同乗用自転車など転倒しにくく安全性の高い自転車の選択を挙げつつ()、幼児健診などでの保護者・利用者に向けた周知、注意喚起を求めている。

図.自転車用幼児座席の例

(写真、図とも日本小児科学会発表資料より)

(編集部・小暮秀和)

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