日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は昨日(11月13日)、気管切開術後早期のチューブ逸脱・迷入による死亡事例が同センターによる2018年の注意喚起後も21例発生していたとして、「医療事故の再発防止に向けた警鐘レポートNo.4」(提言第4号続報)を発行。これを受けて厚生労働省は同日付で、医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室長通知(医政安発1113第6号)および医薬局医薬安全対策課長通知(医薬安発1113第1号)を発出し、関係団体に確認と周知を依頼した。(関連記事:「異所性妊娠に伴う卵管破裂による死亡が発生」) 帽子をかぶせる、おむつ交換:日常ケアから致死的事象に 死亡の原因が発生したタイミングは移送時、気管切開チューブ交換時など複数報告され、そのうち体位変換時(おむつ交換・体位調整などを含む)が21例中15例と最も多かった。提言第4号続報で公表された主な事例は以下の通り。 事例6 ・慢性閉塞性肺疾患、肺炎、人工呼吸管理中。・気管切開術翌日、おむつ交換と体位変換時に気管切開チューブが抜け、バッグバルブマスク換気を開始したが動脈血酸素飽和度(SpO2)が低下。チューブを再挿入後、吸引カテーテルが入らなかった。チューブからバッグバルブ換気を開始したところ、顔面から上半身にかけて皮下気腫を認め、チューブ逸脱から約1時間後に死亡。・死因:呼吸不全、換気不全疑い。解剖あり、死亡時画像診断(Ai)あり。 事例8 ・脳梗塞、人工呼吸管理中。・気管切開術翌日、頸部と体幹が捻転しないよう体位変換を実施。気管切開部に保護材を貼付する際、気管切開チューブから狭窄音を聴取、顔面にチアノーゼを認めた。チューブからバッグバルブ換気を開始し、チューブの再挿入を試みたが難渋し、チアノーゼ出現から約1時間後に死亡。・死因:換気不全。解剖なし、Aiあり(縦隔気腫)。 図1. 体位変換時のポイント 事例11 ・肺炎、人工呼吸管理中。・気管切開術後2日目、帽子をかぶせた際に発語があり、呼吸器の接続不良アラームが鳴動。チューブが気管切開孔から1cm程度抜けたため、チューブを押し込むが入らなかった。チューブからバッグバルブ換気ができず、経口挿管を試み、換気を開始したが皮下気腫が増大し、アラーム鳴動から約1時間後に死亡。・死因:換気不全。解剖なし、Aiあり(気管チューブの先端は前縦隔に迷入)。 事例13 ・脳出血、人工呼吸管理中。・気管切開術後3日目、呼吸器回路を接続したまま体位変換。直後に咳嗽反射があり、呼吸器のチューブブロックアラームが鳴動し、分時換気量が低下。気管切開チューブから吸引カテーテルが入らず、経口やチューブからバッグバルブ換気を行うが抵抗があった。経口挿管やチューブの再挿入を試みたが全身に皮下気腫を認め、アラーム鳴動から約1時間半後に死亡。・死因:換気不全。解剖あり、Aiあり(気管挿管チューブは縦隔内に迷入)。 同センターは、チューブの逸脱・迷入が疑われる徴候として①声が漏れる、②カフが見える、③吸引しにくい/できない、④低換気アラームの鳴動-を挙げ、その際の対応は経口換気の施行、経口挿管への切り替えであると説明。「気管切開チューブの再挿入に固執しない」ことが重要であるとした。 図2. 逸脱・迷入が疑われる場合の対応 (図1、2とも提言第4号続報より) (編集部・小田周平)