厚生労働省は昨日(11月19日)、「医薬品・医療機器等安全性情報No.424」(以下、安全性情報No.424)を公表。在宅酸素療法中の火災事故について、2003年10月~25年5月の約21年間に111件発生し、原因の38%を喫煙が占めたとして、医療関係者に対し患者への注意喚起を依頼した。 リーフレット作成など再三の注意喚起でも、いまだなくならず 在宅酸素療法は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎など長期的に酸素供給を要する患者に対して行われる。QOLの向上や通院負担の軽減が期待され、第10回NDBオープンデータでは在宅酸素療法指導管理料は年間192万件、酸素供給装置は年間244万件算定されるなど利用者数が増加傾向にある。しかしその一方で、在宅酸素療法中の火災による重症および死亡事例が後を絶たない。 厚労省はこれまで、在宅酸素療法を行う際はたばこなどの火気の取り扱いに注意し、取り扱い説明書をよく読んで正しく使用するよう、2018年に適正使用を促す啓発リーフレットを作成(関連記事「在宅酸素療法、たばこなど火気に注意」)、2023年9月には「医薬品・医療機器等安全性情報No.404」を公表するなど、再三にわたり情報提供と注意喚起に努めてきたが、いまだ改善していない。 日本産業・医療ガス協会の調査によると、2003年10月~25年5月に在宅酸素療法中の火災事故は111件発生。原因が特定された事例では、喫煙が42件(38%)で最も多く、漏電(7件・6%)の6倍だった(図1)。 図1. 火災事故原因別の分類 現時点で酸素供給装置自体から出火した報告事例はないことから、あらためて酸素療法中の喫煙やガスコンロなどの不適切使用の危険性が示された形だ。 初心者とベテランに多く、寒い時期は暖かい時期の2倍以上 在宅酸素療法の継続期間と火災事故件数の関係を見ると、最多は4年以上の30件(33%)、次いで半年以内が21件(23%)、4年未満が10件(11%)の順で、初心者と長期経験者で3分の2を占めた。 月別の発生件数を見ると、最多は11月の17件、次いで3月の15件、1月の12件、4月と12月の11件が続いた。季節別では、6~10月の暖かい時期の27件と比べ、11~3月の寒い時期には64件と2.4倍に増加(図2)。在宅酸素療法を導入する際の詳細な説明と継続的なフォロー、冬を迎える時期の注意喚起の重要性が浮き彫りとなった。 図2. 在宅酸素療法中の火災事故の月別発生件数 (図1、2とも安全性情報No.424より) 在宅酸素療法で用いる酸素は支燃性ガスで、高濃度の酸素は可燃物を激しく燃焼させる。身の回りの可燃物の発火点は、髪の毛が230℃、新聞紙が290℃、ナイロンが400℃とされ、紙巻きたばこの火は700~800℃、加熱式たばこは350℃以下であることから、可燃物の材質によっては着火する場合があり、IHクッキングヒーターで焼き物調理する場合にも着火温度に達する可能性があるので注意が必要だ。 安全情報No.424では、あらためて医療関係者に対し、以下の点について患者への周知徹底を依頼している。 ①酸素を吸入中に、たばこや熱源となるものを近づけるとチューブや衣服などに引火し、火傷や住宅火災の原因となる ②酸素吸入中は、紙巻きたばこ・加熱式たばこを問わず、絶対に喫煙しない ③酸素供給装置の使用中は、周囲2m以内に火気(たばこ、ヒーター、ストーブ、コンロ、ろうそく、線香、マッチ、ライターなど)を置かない ④液化酸素装置については、設置型装置(親容器)から携帯型装置(子容器)に液化酸素を移動充塡する際、5m以内に火気を近づけない ⑤火気の取り扱いに注意し、添付文書に従い正しく酸素供給装置を使用すれば火災になることはないため過度に恐れる必要はなく、医師の指示通りに酸素を吸入する (編集部・関根雄人)