医薬品医療機器総合機構(PMDA)は昨日(7月28日)、アムジェンからの依頼により「イムデトラ点滴静注用1mg、イムデトラ点滴静注用10mgの適正使用のお願い『サイトカイン放出症候群』について」を公式サイトに掲出。デルタ様リガンド(DLL)3を標的とする二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体タルラタマブ(商品名イムデトラ点滴静注用1mg、10mg)について、今年(2025年)4月16日の販売開始後、6月15日時点でサイトカイン放出症候群(CRS)として報告された国内副作用症例が120例集積(推定使用患者数380例)。うちGrade 3が4例(Grade 4例はなし)で、転帰死亡例も2例報告されたため、あらためて同薬使用に伴うCRSについて注意喚起を行うこととしたという。 電子添文の「警告」などで注意喚起も タルラタマブは、がん化学療法後に増悪した小細胞肺がん(SCLC)を効能効果として、昨年12月27日に製造販売承認を取得。今年4月16日に販売を開始した(関連記事「タルラタマブ、がん化学療法後に増悪した小細胞肺がんで承認取得」「小細胞肺がん治療薬タルラタマブを日本で発売」)。 同薬の電子添付文書(電子添文)の「警告」欄では、①重度のCRSおよび神経学的事象(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む)が現れることがあるので、特に治療初期は入院管理などの適切な体制下で投与する、②CRSに対する前投与薬投与などの予防的措置を行うとともに十分に観察し、異常が認められた場合は、製造販売業者が提供する管理ガイダンスなどに従い、適切な処置を行う-こととして、注意喚起をしている。 しかし、CRSの副作用症例が国内で120例集積、死亡例も2例報告されたことから、今回の措置に至った。アムジェンは、同薬の使用に際しては最新の電子添文および適正使用ガイドを参照の上、適正使用に留意するとともに、有害事象が発現した場合は速やかに報告するよう協力を呼びかけている。 死亡例の概要は以下の通り。 ●症例1:60歳代男性 ○使用理由:SCLC(肝転移、リンパ節転移) ○併存症:2型糖尿病、高血圧 ○併用薬:なし ○一次治療:カルボプラチン、エトポシド、デュルバルマブ ○二次治療:アムルビシン タルラタマブ投与前の腫瘍マーカー(CA)が13,000 と高値で、腫瘍量が多かった。同薬投与前から血液検査のたびに肝酵素が上昇し状態が悪かった。 ○副作用の経過および措置 ・投与前日:X線検査で浸潤影(肺炎)なし、WBC 3,500、Cr 1.17、CRP 4.26 ・投与開始日:全身状態(PS)2、投与前から悪化傾向、車椅子使用。 予防的に副腎皮質ホルモン薬を投与し、1時間後に三次治療としてタルラタマブ1mgの投与開始。投与後に輸液を実施、投与4~5時間後に発熱が出現。アセトアミノフェンを投与。夜間に頻脈も確認されたためCRSのGrade 2と判断してデキサメタゾンを投与。デキサメタゾンとアセトアミノフェンを複数回投与。 ・投与開始2日目:朝、デキサメタゾンでもCRSを管理できず、1回目のトシリズマブを投与した。その後、デキサメタゾンとアセトアミノフェンを複数回投与。X線検査で浸潤影なし。 WBC 5,200、Cr 3.3、CRP 13.3、IL-6 34,000 ・投与開始3日目:2回目のトシリズマブ投与。血液培養は陰性、喀痰培養はGroup G. Streptococcus 陽性だった。感染症が疑われたため、セフトリアキソンを投与。トシリズマブ投与後にCRPが上昇し、腎機能低下も確認された。腎機能障害については、輸液しても尿が出なかったことから単純な脱水状態ではないと思われた。 WBC 6,400、Neu 5,790(90%)、Cr 4.5、CRP 23.4 ・投与開始4日目:患者死亡(Grade 5)。死因は、CRSに続く腎不全からの高カリウム血症による心停止と考えられた ●症例2:50歳代女性 ○使用理由:SCLC(肝転移、EGFR遺伝子変異) ○併存症:糖尿病、乳がん、がん性疼痛、気管支喘息 ○併用薬:フェンタニルクエン酸塩 EGFR 遺伝子変異陽性肺腺がん術後再発例で、経過中に肝転移巣を再生検したところSCLCへの形質転換を認めた。SCLCに準じて2ラインの化学療法を施行、今回タルラタマブ導入目的で入院。 ○副作用の経過および措置 ・投与2日前:入院 ・投与開始日:10時に前投薬としてデキサメタゾン6.6mg点滴静注、30分後にタルラタマブ1mgの投与開始。開始10分後に悪心が出現、投与終了4分後には悪寒、呼吸困難が出現、喘鳴を聴取した。SpO2 87%(室内気)、体温36.6℃、血圧低下なし、意識レベル正常。酸素3L/分開始。ポータブル胸部X線で肺うっ血、肺炎像は認めず。その後、体温が38.2℃に上昇したためd-クロルフェニラミンマレイン酸塩5mgを皮下注、アセトアミノフェン500mgを投与したところ、呼吸困難は軽快、喘鳴も消失したが解熱せず。 15時18分に悪心出現、メトクロプラミド1A静注。16時5分に呼吸困難再燃、喘鳴聴取、HR 140、SpO2 80%、酸素5L/分に増量。体温40.0℃、アセトアミノフェン500mg投与、デキサメタゾン6.6mg点滴静注、トシリズマブ450mg投与により、17時15分に喘鳴消失。18時1分BP 93/59、再検でも収縮期血圧90台、生理食塩水500mL全開投与。 21時44分にHR 90台、収縮期血圧80台に低下したため、ノルアドレナリン2mL/時開始(0.05mg/mL)。 ・投与開始2日目:0時にアセトアミノフェン500mg 投与。SpO2 90%後半、酸素3L/分に減量した。0~6時までの尿量30mL、両下肢浮腫出現。9時の血液検査で急性腎障害、アシドーシスを認める。意識レベル低下なし。Cr 1.71、血液pH 7.258。 10時39分に右側腹部痛が増強、モルヒネ持続皮下注を開始。11時、集中治療室(ICU)に転棟。12時20分、平均血圧61、ノルアドレナリン3mL/時へと増量した後、持続的血液濾過透析(CHDF)を開始した。15時21分、平均血圧58、ノルアドレナリン5mL/時に増量。体温は37℃台で経過、38℃を超える発熱なし。 ・投与開始3日目:7時50分、SpO2が低下したため酸素4L/分に増量、昨日の尿量は121mL。19時15分に失見当識、意識障害が出現。 ・投与開始4日目:5時30分、体動が激しく、下顎呼吸が出現したためミダゾラム持続静注開始。睫毛反射、対光反射あり。20時55分、SpO2が低下したため酸素5L/分に増量。 ・投与開始5日目:4時1分、SpO2が低下したため酸素7L/分に増量。5時7分、対光反射微弱、睫毛反射なし。SpO2がさらに低下したため酸素10L/分に増量。その後、収縮期血圧60台で経過し、9時34分にCHDF中止を決定した。10時、緩和ケア病棟に転棟し、家族の希望もあり家族と対面。13時過ぎに死亡を確認した。 死因はCRSの可能性があり、剖検は実施されていない。 (編集部・関根雄人)