LVAD植え込み後の大動脈弁閉鎖不全症合併―術前心不全期間,自己大動脈弁開放に関連

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 植え込み型左室補助人工心臓(LVAD)は,国内では心移植へのブリッジを前提としているが,欧米では,高齢者やがん患者などの移植適応外の重症心不全患者の長期在宅治療として急速に普及しつつある。しかし,LVAD植え込み後1年で20~50%が大動脈弁閉鎖不全症(AorticInsufficiency;AI)を合併し予後不良となることが問題となっている。東京大学大学院重症心不全治療開発講座の今村輝彦氏らは,同大学病院で連続流LVAD植え込み手術を施行した52例の後方視的検討の結果から,自己大動脈弁の持続的な閉鎖がAIと関連しており,術前心不全期間のより短い患者ではLVAD補助による左室収縮機能の回復に伴い自己弁の開放が得られやすいことを(Circ J 2015;79:104-111)に報告。また,LVAD補助中に自己大動脈弁の閉鎖が持続する患者では脈圧を生じにくい軸流ポンプがAIに関連することを明らかにした。

研究者の横顔

東京大学大学院重症心不全治療開発講座
今村輝彦氏

 今村氏は2010年に東京大学循環器内科に入局,同科大学院博士課程を経て重症心不全治療開発講座特任助教となった。同講座の絹川弘一郎特任教授らは,LVAD補助により自己大動脈弁が開放せず,AIを合併して転帰が悪化する症例が少なくないことを2011年に初めて報告。今回の検討では,LVAD植え込み後の自己弁開放例ではAI発生が皆無である一方,自己弁閉鎖持続例では,軸流ポンプ使用がAI発生リスクを高めることが示された。現在,術前後の心不全内服治療や心臓リハビリテーションと自己弁開放,AIの関係について解析を進めているという。

 国内の植え込み型LVADの臨床経験は2014年1月現在300例にすぎず,内科的治療から外科的治療に移行する至適なタイミングも十分明らかにされていない。今村氏は「今回,疫学的手法を用いてAI予測因子を解析しており,エビデンス構築に向けて一歩踏み出せたのではないか。今後,移植適応外の患者を含めてLVADが重症心不全患者の治療の柱として普及するために,適応基準や合併症対策について客観的データを積み重ねたい」と話す。

 また,同氏は「現在,心不全患者の多くが内科的治療を受けている。しかし,心不全が長期化した後の植え込み型LVADは治療反応性が低下し,救命は可能でもQOLが著しく低下する。このことは内科医にとって,患者の社会復帰の可能性を左右する重要な問題で,LVAD適応症例をいかに外科に橋渡ししていくかについてエビデンスを構築する必要がある。多くの内科医,外科医がこのような問題意識を共有し,重症心不全の治療戦略を検討していくために研究に取り組んでいきたい」と抱負を述べている。

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