どうして怖い?新型インフルエンザの正体 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする いわゆる"新型インフルエンザ"とは、"ヒトからヒトへ感染できる性質を持つように突然変異したトリインフルエンザウイルスによる、ヒトにおける感染症"を意味する。この変異がいつ起きても不思議はないとする説、過去の例から簡単には起こらないとする説など、様々な見解があるが、WHO(世界保健機関)をはじめ、各国で新型インフルエンザの世界的流行=パンデミックに備えた対策が練られている。戦いに備え、医療従事者として、まず敵の正体を知っておこう。※ここでは、「新型インフルエンザ」に対し、冬季に毎年感染を繰り返すインフルエンザを「季節性インフルエンザ」と呼ぶことにする。 ウイルスごとに感染できる生物が違う ウイルスは他の生物に好き勝手に感染できるわけではない。ウイルスが吸着するためには、ウイルスの表面にあるタンパク質が特異的に結合できる受容体が必要となる。ウイルスが感染できる生物を"宿主"という。例えば、季節性インフルエンザウイルスの宿主は"ヒト"である。 さて、A 型インフルエンザウイルスにはH3N2 やH1N1 などの亜型があるが、この「H」はヘマグルチニン(HA)、「N」はノイラミニダーゼ(NA)を示す。抗ウイルス薬の標的として読者も記憶されているだろう。 感染に際しては、 HA が宿主細胞の受容体に結合するのだが、HA の形の微妙な違いで、結合できる受容体が異なる。つまり、ほんの一部HA が変異したために、宿主そのものが変わってしまう可能性があるのだ。 具体的には、季節性インフルエンザウイルスのHA が主にヒトの気道粘膜に存在するシアル酸α(2-6)ガラクトース結合を持つ糖鎖に結合するのに対し、トリインフルエンザウイルスのHA は主にトリの腸管粘膜に存在するシアル酸α(2-3)が結合した糖鎖に結合する。HA の違いはほんのわずかだ。 ヒトがトリインフルエンザに罹るのは何故? では、これまでにトリからヒトへの感染例があったのは何故か。それは、ヒトの肺胞にはトリインフルエンザウイルスが結合するα(2-3)結合したシアル酸が存在するためだ。トリと濃厚に接触した場合、ウイルスが肺の奥まで侵入し、感染が成立する。 さらに、肺胞で増殖するため症状が出た時にいきなり肺炎になり死を招くケースが多い。 一方、季節性インフルエンザに併発する肺炎は、細菌の2 次感染によるものが多く、重篤ではあるが抗菌薬が効きやすい。 高病原性トリインフルエンザは全身に広がる ここで、インフルエンザウイルスが高病原性を示すとはどのようなことなのかを、トリを例に考えてみよう。 インフルエンザウイルスが宿主細胞に入っていくためには、HA が細胞に結合するだけではなく、結合後、タンパク分解酵素(プロテアーゼ)によってHA が2 つに開裂されなければならない。ウイルス自身ではこのプロテアーゼを作れないので、宿主のプロテアーゼを拝借する。 一口にプロテアーゼといっても多くの種類があり、ウイルスごとに特異性が異なる。トリインフルエンザウイルスが高病原性となる要因が、この特異性の違いにある。病原性のないトリインフルエンザウイルスであれば主に腸管のプロテアーゼでHA が開裂するために、増殖できる部位は腸管に限られている。ところが、HA が少し変異することで、全身の細胞に存在するありふれたプロテアーゼで開裂できるようになる。こうして、全身のあらゆる部位で増殖するようになったのが高病原性トリインフルエンザウイルスだ。 怖いのはヒト型に変異した高病原性トリインフルエンザウイルス 全身で増殖可能な高病原性トリインフルエンザウイルスがヒトに感染しても、そのままでは肺胞からしか侵入できない。しかし、季節性インフルエンザウイルスと同じようにα(2-6)結合したシアル酸に結合する性質を持ったと考えてみよう。このウイルスはヒトの気道粘膜から簡単に体内に侵入したあと血液を介して全身へ広がりあらゆる臓器で増殖することができるのである。これが"高病原性の新型インフルエンザ"だ。 季節性インフルエンザウイルスと高病原性トリインフルエンザウイルスの遺伝子がヒトの体内で混ざり合った場合、この変異は起こりやすくなる。季節性インフルエンザの流行を防ぐのも、新型インフルエンザのパンデミックを回避するための重要な課題であることを知っておく必要がある。 新型インフルエンザについてもっと知りたい!人のために... 1. 厚生労働省新型インフルエンザ対策関連情報http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/2. 国立感染症研究所 感染症情報センター高病原性鳥インフルエンザhttp://idsc.nih.go.jp/disease/avianinfluenza/index.html3. 鳥及び新型インフルエンザ海外直近情報集http://panflu.world.coocan.jp/4. 岡田晴恵著新型インフルエンザ対策ハンドブック角川SSC 2008. 誤解していませんか? 新型インフルエンザウイルスはH5N1 だけではない 現在、流行している季節性インフルエンザの原因ウイルスであるH3N2、H1N1 なども、はじめてヒトへの感染性を獲得したときにはパンデミックと呼ばれ、広く世界中に流行した。これらも当時は「新型インフルエンザ」であったわけだが、高病原性ではない。現在の病態と比べれば重症度は高かったものの、H5N1にみられるような全身性の毒性は持っていない。 現在、新型インフルエンザになると想定されているのはH5N1 であり、この頁でもH5N1 の性質を説明する。しかし、H7N7 なども、今後、新型インフルエンザとして流行する可能性がある。 トリインフルエンザウイルスがヒトに感染した例 トリインフルエンザ=高病原性とは限らない 通常はカモなどの間で不顕性感染*しているもので、宿主に対して病原性を示さない。ニワトリが大量に死亡した原因となったのは、高病原性トリインフルエンザウイルスであり、カモから感染したトリインフルエンザウイルスが、ニワトリの中で高病原性に変異したものと思われる。 * 感染していても、免疫系に認識されないため、症状が現れない状態 関連の海外文献もチェック! トリインフルエンザのうち、H5N1 亜型はニワトリなどの家禽と接触した人間への感染、発症が報告されている。この死亡率は1997 年の流行では30%程度であったが、2004 年の報告では60 ~ 70%程度と毒性が強力になっていた。日本では各地でニワトリでの小規模な発生が見られたが、いずれも終息しており、ヒトへの感染の報告はない。インドネシアからヒトでの多数例の報告がなされ、驚くべきことに罹患者の81%が死亡したことがLancet で報告された。 [要約]H5N1 ウイルスのヒトにおける死亡率への影響因子(インドネシア) 2005 ~ 08 年にインドネシアでH5N1 亜型ウイルス感染と診断された127 例のうち、103 例(81%)が死亡した。入院した122 例に関して詳細に解析した。入院期間中央値は6 日。受診時に発熱121 例(99%)、咳107 例(88%)、呼吸困難103 例(84%)を認めた。 発症から2 日間は、ほとんどの患者が非特異的症状のみであった。発症からオセルタミビル投与開始までの中央値は7 日(0 ~ 21 日)。生存者は、発症から2 日未満にオセルタミビルによる治療を開始した1 例中1 例、2 ~4 日で治療を開始した11 例中4 例(36.4%)、5 ~ 6 日での16 例中6 例(37.5%)、7 日以上の44 例中10 例(18.5%)で、2 日未満に治療開始したほうが5 日以降に開始した場合より生存率は良好であった (P < 0.001)。 死亡率は集団発生のほうが非集団発生より低かった (オッズ比33.3% , 95%信頼区間3.13 ~ 273)。集団での二次発生例の治療開始の中央値は5 日(0 ~ 13 日)であるのに対し、単発例の中央値は8 日(4 ~ 16 日)であった (P= 0.04)。 集団発生例では早期のオセルタミビル投与が良好な予後に関係していると考えられた。 以上から、優れた診断法の開発および的確な患者の同定により、早期のオセルタミビル投与が可能となれば死亡率は減少すると思われた。Kandun IN et al. Factors associated with case fatality of human H5N1 virus infections in Indonesia: a case series. Lancet 2008; 372:744-749.http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(08)61125-3/abstract [PharmaTribune 2009年2月号掲載] 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×