国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室 岡田 浩 「行動変容(変化ステージ)モデル1 無関心期」で、人の行動が変化する際には、心の準備状態(レディネス)によって5つのステージがあるという行動変容(変化ステージ)モデルについて取り上げ、無関心期の患者さんへの対応について解説しました。 無関心期の患者さんに対しては、無理な情報提供や指導は(当然ですが...)トラブルにつながりやすく避けた方がいいことなどを説明しました。ポイントは以下の2点です。 無関心期の患者さんに対しては、怖がって何もしないのではなく、ごく簡単に声をかけておくだけでも十分です。新規に薬が処方されていて服薬指導を行う必要がある場合、パンフレットなどを用いて短時間でポイントを絞った説明を行う工夫が必要です。 今回は、心の準備状態(レディネス)が少し進んで関心が出てきているが自信がない「関心期」と、ちょっと自分なりに始めようとしている「準備期」について解説します。 薬局のカウンターで、「HbA1cが高いんです...」と言う患者さんに、「間食をやめたらよくなりますよ」とか「ご飯の量を減らしたらどうですか?」といった提案をすると「でもね...」とか「言うのは簡単だけどね...」といった反応が患者さんから返ってきたことはないでしょうか? 連載の第2回目は、「言い訳が多い患者さん」に対するアプローチ方法を紹介します。 図 行動変容(変化ステージ)モデル ケース2 言い訳が多い患者さん 60歳代女性、暗い顔をして糖尿病手帳を持って待合室で待っている。経口糖尿病治療薬(ジャヌビア®、アマリール®)が処方されている。過去の薬歴には、毎回「痩せたいと思っているができない」や「そんなに食べてないのに太る」といった患者さんの言葉が書かれている。 失敗例 NGワード、ピットフォール 「~しましょう!」 →「関心期」の患者さんに提案しても押し付けと捉えられて「でも...」と言われてしまうでしょう。この時期の患者さんに対しては、患者さんの現状についてしっかり聞いてみてはどうでしょうか。もし、患者さんから「でも」という言葉が出たら、押し付けられていると思われているサインです。因みに糖尿病療養指導士の間で「~しましょう」を多用する女性を自戒の念を込めて「ましょう(魔性)の女」と呼ぶこともあります。 では、どう対応すればいいの? 成功例 今回の患者さん・・・関心期・準備期(必要性は感じているが実行できていない患者さん) 見分け方 「関心期」の特徴は、「どうせ...」や「でも...」といった「後ろ向きの発言」です。よく薬局で「言い訳が多い」と言われている患者さんがこの時期になります。 「準備期」は、やりたいとは思っているが行う自信がない状態です。この時期の患者さんの発言としては、「なかなか続かないんです」や「つい...」といったものがあります。 対応 患者さんに対して薬剤師はつい「お饅頭は止めましょう」や「野菜を先に食べるといいです」と提案型の指導をしがちな点です。提案よりも聞くことに注力する方がうまくいくことが多いです。 (1)現状の整理 「関心期」の患者さんは、現在の状況について整理できていないことも多いので、知識、リスク、家族など、療養生活を行う上での資源や阻害因子などについて、患者さんに質問してみるといいでしょう。患者さんにとってはできていることと課題が明確になりますし、薬剤師にとっては、患者さんの置かれている状況や価値観を知ることができます。この現状を振り返る過程で、簡単な情報提供を行うだけで、「準備期」に進むことも少なくありません。 (2)さりげない提案 対話例にあるように、押し付けにならないようにさりげなく提案することで行動変容を促す効果があります。逆に、押し付けになると行動変容を阻害します。それは「でも...」、「そうは言っても...」といった患者さんの言葉(抵抗)で判断できます。薬剤師はそのつもりがなくても患者さんが押し付けられていると感じているのです。 さりげない提案として、対話例のように「○○でうまくいっている人もいますよ」という他者の成功体験の紹介という形にしたり、「やり方は3つあります、1つ目は...」というように選択肢を示すという方法があります。 (3)できている、やっていることを聞く(自信を高める) 「準備期」の患者さんは自信がないことが多いので、自信を高めるアプローチを行います。そのためには、現在行っている行動について尋ねたり、過去にうまくいっていたときの体験を聞くといった方法が有効です。 (4)達成感が得られる行動を促す(スモールステップ法) 患者さんと対話していると、対話例のように短時間であっても目標を設定できる場合がたまにあります。その際に気を付けなければいけないのは、決して失敗しない目標にすること。慢性疾患の患者さんの場合、薬局へは必ず定期的にいらっしゃるのですから、焦らずに必ず成功できるような目標を設定し、成功できたら称賛して継続を促します。小さな達成であっても、継続でき、称賛を受けることで達成感を感じることができ、次のステップへ進むきっかけとなります。 表1 関心期/準備期のDoとDon't 表2 関心期の見分け方と対応 理論 医療機関を訪れる患者さんの半数程度は「関心期」「準備期」の患者さんだと言われています。血糖値を良くしたいとは思っているが、具体的な生活習慣の改善までには至っていない患者さんです。喫煙であれば、禁煙には興味があるが行動には結び付いていない段階です。このような患者さんは無理に「しましょう!」と勧めてみても「でも...」、「そうは言っても...」と言って耳を傾けてくれないと思います。 薬剤師はこのような患者さんに対して、言うことを聞かないとか、合併症の怖さがわかっていないと思いがちです。しかしほとんどの患者さんは、たばこは吸わない方がいいことや、血糖値が高いと目や腎臓が悪くなることは既に知っているのです。多くの場合、知っていることと実際の行動とが結び付いていないのです。 それでは、「関心期」、「準備期」の患者さんにはどうアプローチしたらいいのでしょうか。 関心期 「関心期」の患者さんは、基本的には行動を変えようと思っているのですが、実際に行動するまでには至っていない段階です。こうした患者さんに薬剤師が指導しようと食事や運動等についていろいろな方法を提案する場面をしばしば目にします。実はそのことはかえって行動変容を妨げてしまうことになります。指導ではなく、患者さんの現在の知識や生活習慣についての考え方を毎回少しずつでいいのでしっかり聞き、薬歴に残しておきます。 またこのとき重要なのは、持っている知識を全部話さないことです。患者さんが知りたいと思っていることを対話によって明確化し、その後に患者が理解できる情報量にコントロールしながら提供します。提供すべき情報が多い場合は、配布資料を活用したり、付箋やお薬手帳に書いて渡すなどの工夫も必要になります。 準備期 「準備期」の患者さんには、血糖値が良かったときの方法を質問したり、現在行っていることを尋ねることで、実行への自信を高めるようにします。また、この時期に重要なのは、(1)行動目標を適切に設定すること、(2)実行したことに対して称賛すること、(3)患者さんの行動をポジティブに言い換えることです。 (1)行動目標設定 患者さんによっては「明日から毎日1時間散歩する!」と高い目標を掲げることもあります。現在すでに50分位歩いているような患者さんであればいいのですが、そうでなければ挫折する可能性があるので、必ず成功できるような目標を設定します(スモールステップ法)。 (2)称賛 適切な行動をとった場合に称賛することで、その行動が強化されます(オペラント条件付け)。この時期の患者さんは、行動に移していないことも多いので、そういう場合は「やってみようと思っている気持ち」を称賛します。 (3)ポジティブチェンジ また、この時期の患者さんは、時に自らの療養行動についてネガティブに捉えがちなので、ポジティブに言い換える「ポジティブチェンジ」を行って、伝えることも必要になります。 例) 患者:「年末年始に飲み会が多くて、食べ過ぎないように気を付けていたのに体重が1㎏も増えちゃいました」(がっかりしている)薬剤師:「気を付けていたから1㎏の増加で済んだんじゃないですか?」 まとめ 「関心期」現状の確認を毎回少しずつでよいので行ってみましょう。患者さんに生活を振り返ってもらうことで、患者さん自らの課題を知ることができ、また薬剤師も知る機会となります。「準備期」自信がないために行動変容に結びついていないことが多いので、自信を高めるようなアプローチを心掛けると良いでしょう。小さくてもいいので実現可能な目標を立て、成功体験を積んでもらい、一歩ずつ生活習慣の改善に結びつくようにします(スモールステップ法)。 さいごに 患者さんの半数は「関心期」「準備期」です。患者さん自身が行動を変えて血糖値が改善したにもかかわらず、話を聞いた薬剤師が感謝されるということをしばしば経験します。生活習慣の改善は容易ではありませんが、薬を渡すだけでなく、患者さんの行動変容の手助けを薬局薬剤師も担う必要がある時代になっていると思います。上記のようなアプローチをあなたも試してみませんか? 参考文献 岡田浩. 3☆ファーマシストを目指せ!. 東京, じほう, 2013.岡田浩. 薬剤師のための糖尿病療養指導ガイド. 門脇孝 監, 日本くすりと糖尿病学会編, 東京, じほう, 2012.松原千明. 健康行動理論の基礎. 東京, 医歯薬出版, 2002.坂根直樹. 質問力でみがく保健指導. 東京, 中央法規, 2008.坂根直樹. 説明力でみがく保健指導. 東京, 中央法規, 2011.足立淑子. 行動変容のための面接レッスン. 東京, 医歯薬出版, 2008. [PharmaTribune 2015年6月号掲載]