腹部大動脈瘤の急速拡張予測に 「石灰化スコア」が有用

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 冠動脈疾患患者では腹部大動脈瘤(AAA)の合併頻度が高いが,いったん発生した瘤の拡張速度は比較的遅い。これに対し,冠動脈疾患のない患者に発生したAAAは急速に拡張する(Atherosclerosis 2012; 222: 278-283)。冠動脈疾患が存在するとAAA拡張がむしろ遅いというのはパラドックスのようだが,今回,その背景にAAAの石灰化が関与している可能性が明らかにされた。東京大学循環器内科の中山敦子氏,同科講師の森田啓行氏らは,日本人AAA患者414例の後方視的検討の結果から,CT画像上の瘤石灰化率がその後の年間瘤径拡張速度と逆相関することをCirc J(2016; 80: 332-339)に報告。独自に考案したAAA石灰化スコア(カットオフ値2.74%未満)は,瘤急速拡張の予測に有用で,瘤最大短径と同スコアを組み合わせることでその予測能は有意に向上するという。

研究者の横顔
中山氏

東京大学循環器内科 中山 敦子

 中山氏は,福井大学医学部を卒業後,東京大学大学院博士課程を修了。2012年から同大学循環器内科助教となり,小室一成教授の指導を受けて今回の論文をまとめた。AAAの拡張速度と動脈硬化・石灰化との関係に着目したきっかけは,2010年に大動脈瘤のデータ解析に携わった際,動脈硬化性疾患と大動脈瘤の進行は必ずしもパラレルではないことに気付いたことが始まり。大動脈瘤も動脈硬化性疾患の1つなので,驚いて共同研究者の森田氏や当時教授であった永井良三氏に報告すると,おもしろいから調べてみてはと背中を押された。最初の論文(Atherosclerosis 2012; 222: 278-283)を発表すると,三井記念病院副院長の原和弘氏から「動脈硬化のため硬くなった壁(石灰化)は拡張しにくいのか」と質問を受け,石灰化を定量評価し,瘤の拡張速度との関連を調べたいと考えた。研究手法での難関は,①大動脈瘤の石灰化定量評価方法②時間の影響を受ける混合モデルの統計解析−の2つ。各分野の専門家と検討を重ねて今回の論文完成にこぎつけた。

 中山氏は現在,第2子の育児休業中だが,4月から職場復帰を考えている。女性研究者にとって,出産・育児に伴う時間的空間的制約は決して小さくない。個人情報を取り扱うために生データは学内の所定の場所で扱う必要があり,今回の石灰化測定を全て行うのに2年近くを要した。研究を行う上では,何よりも結果を自分自身が知りたいということがモチベーションとなり,継続することができたという。同氏は「理解して支えてくれる家族にはいつも感謝している。さらに,東大循環器内科では,教授や医局長をはじめ先生方に相談しやすい環境に恵まれている。育児は毎日が新しいことの連続で視野も広がるので,破綻しないように配分を考えて,臨床・研究・教育に取り組んでいきたい」と述べている。

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