術前のフィブリノーゲン高値とプラスミノーゲン低値低値がPEA後長期予後不良に関連

慢性血栓塞栓性肺高血圧症

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 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,肺動脈内に生じた器質化血栓による閉塞に伴う肺高血圧症(PH)を特徴とする。その根治的治療法である肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)後の予後予測には術前後の血行動態が指標として用いられてきた。千葉大学呼吸器内科の加藤史照氏らは,PEAを施行したCTEPH患者117例を対象に術前の凝固線溶系の異常と術後の長期予後との関連について検討。その結果,術前のフィブリノーゲン高値とプラスミノーゲン低値がPEA後の長期予後不良に関連することをCirc J(2016; 80: 970-979)に報告。また,PEA後にトロンボモジュリン(TM)およびプラスミノーゲン値が上昇したことから,器質化血栓の外科的除去は血行動態の改善だけでなく,線溶系の是正に有用なことが示唆された。

研究者の横顔
加藤氏

千葉大学呼吸器内科 加藤 史照

 加藤氏は今年3月,千葉大学大学院呼吸器内科学講座博士課程を修了。同科の巽浩一郎教授,先端肺高血圧症医療学の田邉信宏教授の指導を受け,同大学病院で1980年代から集積されたCTEPH患者約250例を対象に,凝固線溶系の異常に着目して長期治療成績を検討している。内科的治療群(Circ J 2014; 78: 1754-1761)と同様に,PEA群でも術前のフィブリノーゲン高値とプラスミノーゲン低値の組み合わせ(A群)が長期予後不良に関連することを初めて示した。

 加藤氏は「今回CTEPH患者の長期予後は凝固線溶系に影響されることが示唆された。A群に該当する患者では特に慎重に経過観察し,悪化の徴候があれば,血管拡張薬の早期導入や抗凝固療法の強化を検討すべきかもしれない。また背景にある凝固線溶系異常がCTEPH発症に関与している可能性もあり,この報告が今後の研究の一助になればよい」とした。その一方で「現段階では,凝固線溶系異常の原因や器質化血栓の発生機序が解明されていない。臨床的知見を裏付けるための基礎研究や治療に生かすための治療標的の探索が必要だ」と課題にも言及した。

 最近,PHの病態形成に血管壁構成細胞の増殖や細胞死の異常が関与している可能性が注目されている。同氏らもPHモデルラットを用いて細胞動態を観察し,血管拡張薬とは異なる新規の治療標的の探索を進めている。同氏は「今後も診療と基礎研究を継続し,臨床での疑問や疾患の原因を追究するような研究に取り組みたい。CTEPH患者の治療では心臓血管外科と密接に連携しており,今回の論文も共同でまとめることができた。若手医師も積極的に研究に取り組みやすい環境づくりがなされていることに感謝したい」と話している。

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