薬剤師のための健康行動科学/健康行動科学に基づく患者支援(エンパワーメント1)

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

国立病院機構京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室 岡田浩

 残念ながら、今回で最終回となってしまいました。連載の最後は、私が全国で行っている「3☆(スリースター)ファーマシスト研修」や、糖尿病に関わる医療者向けの演劇を使ったプログラム「糖尿病劇場」の基本概念である「エンパワーメント」を取り上げます。

 このエンパワーメントという考え方に出会ったのは、私が薬学部を卒業する少し前の2004年頃です。私が20歳の頃に参加していた福岡の1型糖尿病サマーキャンプ"ヤングホークス"で感じていたことが明確に文章で書いてあり、驚きました。サマーキャンプについて今回は触れませんが、興味のある方は拙著「3☆ファーマシストを目指せ!」を読んでみてください。

エンパワーメントとは

 「糖尿病の自己管理の主体は患者さんであり、医療者の役割は専門家として情報提供や問題解決の援助を行いつつ、患者さんを見守っていくこと」という考え方です。強制や脅しだけでは、人の行動はなかなか変わりません。そこで、強制ではなく患者さんの問題解決の能力を引き出すことで、患者さんが抱える問題を解決していくのがエンパワーメント・アプローチです。叱責や脅しが「北風」だとすれば、エンパワーメントは、患者さん自身の内面に働きかけることから「太陽」と言えるかもしれません。

 エンパワーメントという概念は、世界的に現在の糖尿病療養指導の分野では大きな流れになっています。この概念が日本に本格的に紹介されたのは、2001年、奈良県立医科大学の石井均先生によって「糖尿病エンパワーメント」が翻訳、出版されてからです。提唱者の1人であるRobert Anderson博士は、2015年その功績によりアメリカ糖尿病学会よりRichard Rubin Awardを授与されました。受賞のお祝いに愛弟子である岡崎研太郎先生(名古屋大学大学院 医学系研究科)と共に、ボストンでお会いしてきました。受賞講演の動画がWeb上に公開されていますので、興味のある方はぜひ見てください。

ケース8 少し気落ちしている様子の患者さん

60代女性。メトグルコ®250mg(1回2錠 1日3回 毎食後)が処方されている。

失敗例

漫画:ガミング&スリーペンズ

NGワード、ピットフォール

「HbA1cが高いですね」→ 糖尿病を持ちながら生きているのは患者さん自身であり、検査値の評価をするのも患者さんです。医療者は患者さんに合併症のリスクなどを伝える必要はありますが、評価をするのはあくまで患者さんです。

「頑張らないと...になりますよ」→ 合併症の恐ろしさを伝えて脅すことだけでは多くの患者さんの行動は変わりません。患者さんは合併症の恐怖は感じますが、具体的に何をすればいいのかわからないまま時間が過ぎていくことも多いです。患者さんの行動変容を支援することも医療者の重要な仕事です。

「○○するといいです、○○しましょう!」→ 患者さんの行動変容を促すためには、気持ちが前向きになることが欠かせません。しかし、医療者が患者さん自身の持つ課題に対し、安易に解決策を考えて提案することは、患者さんのやる気を奪い、長い目で見ると患者さんの自立を阻害してしまいます。

では、どう対応すればいいの?

[PharmaTribune 2015年12月号掲載]

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