75歳以上の院外心停止患者の転帰が経年的に改善

総務省消防庁の全国前向きウツタイン登録

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 わが国では75歳以上人口の増加が続いており、院外心停止(OHCA)で救急搬送される高齢者が増加している。金沢大学救急部講師の舟田晃氏らは、消防庁の2008〜12年の全国前向きウツタイン登録データの解析から、75歳以上のOHCA患者の転帰が経年的に改善したことが示されたとCirc J(2016; 80: 1153-1162)に報告。75歳以上のOHCA患者33万例における心停止から1カ月後の神経学的転帰が良好〔脳機能分類(CPC)1〜2〕な生存率は、研究期間全体で0.88%、2008年の0.73%から2012年には0.96%に改善した(P for trend<0.001、図1)。また、心停止が心原性、目撃あり、最初に記録されたリズムが除細動の適応〔心室細動(VF)/無脈性心室頻拍(pVT)〕の3条件を満たす患者群では、CPC 1〜2生存率が8〜26%と良好で、心肺蘇生(CPR)の有用性が高いことが示唆される(図2)。

研究者の横顔
舟田氏

金沢大学病院救急部 講師 舟田 晃

 舟田氏は金沢大学医学部を卒業後,同大学循環器内科に入局。2009年に同大学病院集中治療部特任助教に就任,2010〜14年11月の国立循環器病研究センター勤務を経て,2014年12月から現職。高齢者を中心にOHCAの実態や予後の改善について研究しており,今回,同大学救急部准教授の後藤由和氏,循環器内科教授の山岸正和氏の指導を受け,2008〜12年の全国前向きウツタイン登録から75歳以上のデータを解析した。

 2005〜09年のデータ解析では,80〜90歳以上のOHCA患者の転帰は改善しなかったが,今回の解析では,75〜94歳のOHCA患者の予後が経年的に改善していることが確認された。また,年齢,心停止目撃の有無,除細動の適応となる初期リズムは,強力な予後予測因子であることが示された。

 舟田氏は「95歳以上あるいは目撃なしの患者の転帰不良は,OHCA後最初に記録されたリズムが除細動の適応である頻度が著しく低いことに起因する。現行の救急医療体制では,一次救命措置において現場での蘇生の中止基準がなく,全例で処置や救急搬送が行われる。神経学的転帰良好の見込みがあるOHCA患者に,限られた医療資源を配分できる仕組みについて今後検討する必要がある」と考察。「バイスタンダーCPRは,さらなる改善の余地がある」と指摘。今後,市民講座などを通じて,高齢者の心停止に遭遇しやすい介護職員や同居家族,さらには地域住民を対象にしたCPRの教育に取り組みたいという。

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