薬剤師のための漢方薬講座/消化器症状-現代医学的・東洋医学的な考察- 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 亀田総合病院 東洋医学診療科南澤 潔 氏 消化器症状と一言でいっても幅が広く、前回取り上げた"便秘"も広い意味では消化器症状(下部消化管症状)に含まれます。今回は患者さんからの訴えが多い胃痛、胸焼け、食思不振といった上部消化管症状に対して使われる漢方薬について考えてみます。 目次 現代医学的な考察 胃痛 胸焼け 食欲不振 東洋医学的な考察 ◎現代医学的な考察 ◆胃痛 「胃が痛い」という訴えの真の原因は、実はさまざまです。胃そのものでなく、心臓や肺などの胸腔内臓器や大血管、肝胆道系、膵臓に関わる疾病に起因する症状、さらには盲腸(急性虫垂炎)の初期症状や、筋骨格系の疼痛までも、患者さんは「胃が痛い」と表現することがあります。 そもそも腹腔内臓器、中でも腸管知覚の局在性はかなり大雑把(胃や腸管は腸間膜などに包まれて腹腔内にぶら下がっており、上下左右にかなり移動します)。本来、右下腹にある虫垂の痛みが、みぞおちの痛みとして感じられたりします。つまり、「胃が痛い」と訴えていても実際に「胃」が痛いとは限らないため、安易にOTCのH₂ ブロッカーを薦めるのは考えものです。 痛みの性状が鈍いのか鋭い痛みなのか、持続するのか間歇的なのか、随伴する副症状はあるのかなどを確認し、痛みが消化管に由来するのか、それ以外かをきちんと絞り込むことが肝要です。疑わしければ必要に応じて医療機関の受診を勧めてください。上部消化管の器質的疾患が痛みの原因になっている場合には、胃、十二指腸に問題があることがほとんどです。 慢性の胃炎や消化性潰瘍の治療法としては、原因となる"ピロリ菌"(Helicobacter Pylori)感染例に対して積極的な除菌が行われています。クラリスロマイシンの耐性菌の増加により一時期低下していた除菌成功率も、P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)が現れて以降、大幅に改善しています。一方で、器質的な異常はないもののストレスなどに応じて腹痛を起こす、機能性胃腸症(FD)の症例も多くみられます。 ※ Murakami K. et al. Gut 2016 Sep; 65(9): 1439 -46. doi: 10.1136/gutjnl-2015 -311304. Epub 2016 Mar 2 ◆食欲不振 食欲不振では、さらにさまざまな心身の不調が原因となりえます。中でも慢性的な炎症や感染の遷延、臓器障害、悪性腫瘍などが原因である場合は、当然、原疾患の治療が優先されます。 一般に漢方治療では、その不調の原因がなんであるかにかかわらず、治療が可能です。原因となる器質的疾患があっても、漢方によって症状のみ一時的に改善させてしまうことがあります。この点は要注意で、治療と並行して、背景に見逃してはいけない疾患が隠れていないかをしっかり検討する必要があります。私自身もこういった症例を複数、経験しました。 ◆ 胸焼け 胸焼けは食道裂孔ヘルニア(巾着のような形をしている胃の、「入り口の紐が緩んだ」ような状態)に起因する、胃液の逆流が原因の胃食道逆流症(GERD)が関係していることがしばしばあり、PPIなどの制酸薬が有効です。それでも十分に改善しなかったり、内視鏡的には粘膜の異常所見がないにもかかわらず、症状を訴える非びらん性胃食道逆流症(NERD)という病態もあり、治療に難渋することがあります。 薬剤師は、これらの症状が薬剤起因性のものでないか、増悪因子となる薬はないかのチェックをお願いします。また、ポリファーマシーを解消するだけで改善することがまれならずあります。 ◎東洋医学的な考察 上腹部(臍からみぞおち)を東洋医学では「中焦(ちゅうしょう)」と呼びます。有名な補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)の「中」の字は、この中焦を指しています。 現代医学的にも上部消化管は消化吸収をつかさどる部位ですが、中でも上腹部(中焦)に位置する胃、十二指腸および消化液をつかさどる胆道系、膵臓辺りを、東洋医学的な仮想機能単位の考え方である「五臓(ごぞう)」では「脾胃(ひい)」と呼びます。 食べ物から日々生きていく活力を体内に取り込み、エネルギーである「気」を生み出す器官として、呼吸をつかさどる肺と並んで健康に生きていく上で不可欠な機能単位です。「脾」といっても、実際には現在の脾臓(spleen)は網内系の器官で消化吸収には関与していません。おそらく、まだ内臓の機能が分からなかった時代に、現在の膵臓の機能をつかさどる機能単位として「脾」というものを充てたと考えられます。「五臓」は実質臓器、「六腑(ろっぷ)」が管腔臓器で、胃や小腸は「六腑」に属します。しかし、通常「脾」というと、消化のみならず吸収、さらには気の産生機能までを持つと考えますので、まさに上部消化管機能全体を示す概念と理解していただいた方がいいでしょう。 この脾の機能低下(特に"気"の産生機能の低下)を「脾虚(ひきょ)」と呼び、その代表的な治療生薬が人参(にんじん;いわゆる"朝鮮人参")です。 次のページ(6月13日配信予定)では便秘の治療に使う漢方薬を学びます ◆執筆者◆ 南澤 潔 氏 医学博士日本東洋医学会 漢方専門医・指導医日本内科学会 総合内科専門医・指導医日本救急医学会 救急科専門医 【ご略歴】1991年 東北大学医学部 卒業1991年 武蔵野赤十字病院 研修医1993年 富山医科薬科大学(現 富山大学)和漢診療科1995年 諏訪中央病院 内科1996年 成田赤十字病院 内科1999年 麻生飯塚病院 漢方診療科2001年 富山大学 和漢診療科2006年 砺波総合病院 東洋医学科 部長2009年 亀田総合病院 東洋医学診療科 部長 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×