なぜ、医師や薬剤師と住民との協働が可能なのか2

上田薬剤師会会長の飯島康典氏に聞く

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 地域包括ケアシステムは、高齢者や慢性疾患患者でも、病院に長期入院するのではなく、住み慣れた自宅で療養を続け、自分らしく暮らすことを目標としている。この「住み慣れた自宅で療養を続ける」ことが難しい現状について、上田ではNPOを設立、地域住民が互いに介護の一端を担い合えるまちづくりを進めている。NPO設立のきっかけを作った飯島康典氏に、"新田の風"の活動について詳しく聞いた。

認知症サポーター養成講座、住民や子どもとの交流

 2013年に発足したNPO法人"新田の風"(井益男理事長)。その設立経緯には以下のような言葉がある。「要介護者になって望めども家に帰れないお年寄りが後を絶たない」。そういう事態をなくすためには、「家族を含めた医療・福祉・薬局・自治会そして行政が総力を挙げて取り組む」ことが必要である。殊に重要なのは住民のパワーで、「地域住民は自分たちの将来、日本の将来のために今から準備していこう」と宣言している。

 主な活動は、以下。

  1. 認知症対策
  2. 住民や子どもとの交流
  3. 小規模多機能居宅介護施設の支援
  4. エンディングノートの作成と普及
  5. ふれあいサロン"風"の運営
  6. よろず相談所の開設

  1の認知症対策のメインは、認知症サポーター養成講座である。地域での受け入れと見守りができ、本人や家族を支えられる人材の育成が目標だ。修了者には、さらに4回の講義と実習、訓練を組み合わせたシニアサポーター(現・レベルアップ)講座も用意された。また、小学生サポーターも養成されており、偏見の払拭や徘徊者の発見などに成果を上げているという。

 2「住民や子どもとの交流」は地域での友だち作りだ。元気なうちに、顔の見える関係になっておこうということである。さらに、小学校の"はたけクラブ"に協力し、チューリップの球根植えを行うなど、高齢者と子どもが自然に触れ合える場面を作り出している。

小規模多機能の誘致、いのちの選択カード

 上田地区にはそれまで小規模多機能居宅介護施設がなく、要望が多かった。そこで、"新田の風"の理念に賛同し、副会長を務める宮島渡氏を通じて高齢者総合福祉施設アザレアン真田を誘致した。2014年に"新田の家"が誕生し、すでに2人を看取ったという。3その運営に協力することも"新田の風"の使命である。

 4は、「誰にでも必ず訪れる"死"をいたずらに忌み嫌うのではなく、自然の出来事として受け止められる家庭・地域づくり」を目指すもので、まず病名や余命の告知、終末期の医療や生命維持処置についての希望を書き込む"いのちの選択"を作成した。これはお薬手帳に貼るカードで、救急搬送時に確認できるように作られている。薬剤師会の薬局に置かれている。

新田の風"いのちの選択"カード

 5ふれあいサロン"風"は住民の交流の場である。1回100円で茶菓の接待、囲碁やカラオケが利用できる。オープンする金曜を心待ちにする人も多い

 6のよろず相談所では、NPO法人のメンバーである医師、薬剤師、ケアマネジャー、僧侶、自治会役員、民生委員などが、住民のさまざまな相談に応じている。

 連携チームから"新田の風"に至る活動について、上田薬剤師会は黒子に徹し、事務局的機能を果たした。会場の提供、会計業務や機器の貸し出し、ワークショップの進行など。一方、薬剤師会のメンバーは個人で活動に関わるなか、患者と薬剤師ではない、コミュニティの成員同士としてのつながりを経験した。この活動を始めてから、薬局の外での薬剤師と住民の会話が増えたと、飯島氏は語っている。

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