薬剤師のための漢方薬講座/頭痛-東洋医学的な考察と治療に使う漢方薬-

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

亀田総合病院 東洋医学診療科
南澤 潔 氏

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イラスト:吉泉ゆう子

目次

東洋医学的な考察

◆気血水の異常からアプローチ

◆本治に用いる漢方薬

◆標治に用いる漢方薬

◆標治と本治は表裏一体

◆漢方薬の効果に地域差が?

◎東洋医学的な考察

気血水の異常からアプローチ

頭痛は大変つらい症状で、患者さんのQOLを大きく損ねるのですが、現代医学的な対処では十分改善できない例も少なくありません。漢方治療は、そういったケースでも時に驚くような著効を示すことがあります。頭痛の患者さんを治せずに悩んでいた脳外科医が、その効果を目の当たりにして漢方の専門家へ転身したケースを複数知っています。

二次性頭痛では、もちろん原因疾患の治療が優先され、漢方薬の出番はないことが多いのですが、例えば慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性が数多く報告されているなど、保存的な治療では漢方薬が活用される場面もあります。

他方、一次性頭痛は現代医学的にはその原因が判然としませんが、東洋医学的には気逆、気鬱、瘀血おけつ、水毒など気血水それぞれの異常が原因であると捉えることができ、多彩な切り口から治療をすることができます。

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■本治に用いる漢方薬

◆拍動性頭痛の場合
呉茱萸湯 桂枝人参湯 半夏白朮天麻湯 当帰芍薬散+附子 
茯苓四逆湯 五苓散

天候が崩れる前に起こりやすい拍動性の頭痛は、水毒の関与が疑われます。この場合、五臓では脾の衰え(脾虚)や、寒熱では寒(冷え)を伴うことが多く、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)や桂枝人参湯(けいしにんじんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)といった処方が適応となります。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に附子(エキスならアコニン散や附子末)を加えて用いたり、煎じ薬では、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)のような附子ぶし(トリカブトの根茎)が主役となる陰症の極みに適応になる処方が必要なこともある一方、冷えがあまりない場合には五苓散(ごれいさん)といった陽症の処方も用いられます。

◆非拍動性頭痛の場合
葛根湯 桂枝加桂湯 桂枝茯苓丸 桃核承気湯 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 
延年半夏湯 清上蠲痛湯 釣藤散

典型的な緊張性頭痛のように持続性の非拍動性頭痛では、葛根湯(かっこんとう)や、桂枝湯の桂枝を増量して気逆に対応した処方である桂枝加桂湯(けいしかけいとう)、瘀血と気逆に対する処方である桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や、実証で便秘も伴うような場合には桃核承気湯(とうかくじょうきとう)が用いられることもあります。

釣藤散(ちょうとうさん)や当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)が有効なこともあります。煎じ薬では延年半夏湯(えんねんはんげとう)や清上蠲痛湯(せいじょうけんつうとう)という処方も有効なことがあります。

◆標治に用いる漢方薬
呉茱萸湯 桂枝人参湯 釣藤散 葛根湯 五苓散 
五積散 苓桂朮甘湯 川芎茶調散

慢性頭痛のガイドライン2)でもエビデンスのある治療薬として、呉茱萸湯、桂枝人参湯、釣藤散、葛根湯、五苓散の5処方が取り上げられています。呉茱萸湯は病名治療でもしばしば有効なようです。前項で挙げたような処方に加え、五積散ごしゃくさん、苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとうなども頭痛に保険適用がありますが、これらも気逆と水毒の治療薬といえます。

また、頭痛の治療薬としてエキス剤になっている川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)も幅広い症例に使用可能です。

標治と本治は表裏一体

頭痛治療に用いられる漢方薬は前述したように実に多彩ですが、本来は対症的な治療である標治が実は本治と表裏一体となっており、頭痛の治療に伴い、その他の心身の不調が一緒に取り除かれることを経験します。これは漢方治療ではよくあることですが、頭痛については病名治療でも、こういうことが多い印象があります。

漢方薬の効果に地域差が?

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富山では水毒と冷えが原因

筆者は以前、北陸地方の富山県で勤務していました。富山は本州の日本海側のほぼ中央に位置する、水や魚がとても美味しい地域ですが、天候の悪い日が多く、冬季には雪がたくさん降ります。冬でも湿度が高く、一方で気温はそれほど下がらないため、雪が降ると融雪装置といって道路に水をまく設備があり雪を溶かします。学生生活を送った仙台は冬の寒さが厳しいため、冬季に路面に水をこぼすことは、凍結してスケートリンクのようになってしまうので厳禁でしたから、富山では冬なのに路面に水をまくということに大変驚きました。

そんな富山では頭痛に苦しむ患者さんが数多くおられましたが、しばしば漢方治療が著効を示しました。まだ小さな子供を育てているお母さんが、連日のように激しい頭痛に苦しんで半分寝たきりのような生活をしていたのが、漢方薬を飲むようになってから普通の生活が送れるようになったと涙ながらに喜んでくれたり、毎月何十回とトリプタン系製剤を必要としていた患者さんが半年間全く発作がなくなるなど、治療している側が驚くほどの効果を上げることがまれならずありました。冷えや水毒が主因であることが多く、処方としては附子剤が非常に有効で、当時は「頭痛は漢方で治せないことはないのでは?」と思うほどでした。

千葉の鴨川では気逆が

ところが、現在勤務している南房総の鴨川市に転勤してくると、著効を得てきたそれまでのやり方では頭痛の患者さんがいっこうに良くならないのです!これにはたいそう驚きました。数カ月間の試行錯誤でなんとかそれなりに効果をあげられるようになりましたが、一時期大いに落ち込みました。

鴨川は、房総半島の南端に近く、太平洋に面した温暖な地域です。海に面しているので湿度も比較的高いのですが、結果的にはこの地域の患者さんの頭痛は気逆が主で、水毒や冷えはあまり有しない方が多いようです。同じ頭痛でも、地域や環境によってここまでの差があるのかと、人体の神秘に深く感じ入りました。

ちなみに、富山では頻用処方だった感冒時の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)も南房総ではほとんど使わなくなり、逆に以前はあまり出番のなかった葛根湯がよく効く患者さんが多いのも印象的です。

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参考文献

2) 慢性頭痛の診療ガイドライン2013.日本神経学会・日本頭痛学会監.医学書院、2013.
http://www.jhsnet.org/GUIDELINE/gl2013/gl2013_main.pdf

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