【Essay】無痛分娩の健全な発展を期待して

　最近、無痛分娩の危険性に関する話題が取り沙汰されるようになった。これは人々がより楽なお産を望み、無痛分娩への関心が高まったことに他ならない。古来、日本人は喜怒哀楽の感情を表に出さないことが美徳と考えられ、欧米人のあからさまな仕草に批判の目を向ける傾向さえ見られたが、果たしてこれは正しいことであろうか。欧米では女性のみが「産みの苦しみ」に耐えるのは不公平と捉え、早くから無痛分娩の研究が進められてきた。一方、日本では、「お産は自然の摂理であり、なるべく手を加えずに、助産師に任せる」という思想があり、産婦人科医は事実上、婦人科医であった。筆者は、1965年に産科のみで個人開業し、現在問題となっている硬麻法（持続性腰部硬膜外麻酔法）分娩を行っていたが、同法による母子への悪影響は皆無であった。国内外の患者さんの満足度が高く、1979年の世界産婦人科学会で発表する機会を得た。より素晴らしい無痛分娩の発展を期して本稿を提示したい。