総合感冒薬~子供のかぜ薬、どんな薬がイイですか?-前編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

「22時過ぎか、あと少しで今日のドラッグストア業務も終わりそうだ。」

明日に備えて、品出しでもしておこうと、調剤室を出てOTC売り場へ向かう薬剤師のあなた。そこに1人の女性客が来店しました。

「子供がかぜなんですが、どんな薬がイイですか?」

近隣の夜間急患センターは22時で受付が終了。薬を飲まずに朝まで様子を見るべきかどうか悩むところではあります。子供のつらそうな寝顔を見ていると、親としては、少しでも症状を和らげるために、あるいはかぜがひどくならないうちに、早めに薬を飲ませたい。そんな想いを抱くことでしょう。

だがしかし、それは本当にかぜなのか?

「かぜなんですが...」と言ってOTC医薬品を買い求めに来たお客さん(患者さん)に対して、まず考えるべきことは、「だがしかし、それは本当にかぜなのか?」です。この連載は、臨床推論の解説を目的としたものではないですが、風邪について、最低限確認すべきポイントを整理しましょう。今回のケースでは、患者さん本人が目の前にいるわけではないので、症状の正確な把握は困難ですが、OTC販売において大事なのは、症状から病名を当てることではなく、OTCで対応できる状態にあるかどうかの判別です。

【最低限確認しておきたい情報】

  • インフルエンザやアレルギー性鼻炎ではないか
  • 「いつもと何か違う」症状ではないか
  • 複数の症状が出ているか

インフルエンザシーズン中の感冒症状は、"ただの風邪"ではなく、インフルエンザウイルス感染症の可能性が高いと考えられます。流行状況やワクチン接種の有無にもよりますが、こうしたケースでは総合感冒薬の販売に慎重を期した方がよいかもしれません。15歳未満の適用はないのですが、パイロンPL顆粒のようなサリチル酸系製剤が含有された風邪薬は販売すべきではないでしょう。医療用医薬品の「幼児用PL配合顆粒」添付文書には、以下のような記載があります。

サリチル酸系製剤の使用実態は我が国と異なるものの、米国においてサリチル酸系製剤とライ症候群との関連性を示す疫学調査報告があるので、本剤を15歳未満の水痘、インフルエンザの患者に投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には、慎重に投与し、投与後の患者の状態を十分に観察すること。

「鼻水がひどくって・・・」という症状で来店した場合、かぜだけではなくアレルギー性鼻炎の可能性も考えられます。アレルギー歴や花粉のシーズンかどうかも、判断要素の1つとなるでしょう。小児におけるアレルギー性鼻炎の有病割合は近年増加傾向にある1)との報告がありますが、本ケースで重要になるのは、やはり2と3だと思います。

「いつもと同じ症状」ということであれば、"何か危険な兆候"はなさそうだ、という1つの目安になります。また、ウイルス性の上気道炎の場合、鼻汁、咽頭痛、発熱など複数の症状が出るのが特徴的で、咳のみ、咽頭痛のみ、あるいは頭痛のみ、ということは珍しいのです。咽頭痛のみの症状では溶連菌感染症を、激しい頭痛のみの場合は髄膜炎などを考えなくてはいけませんね。

「寒気がして震えが止まらないっ」という場合には、菌血症などを考慮しなければなりません。発熱の他にひどい腹痛があるケースでもただのかぜではなさそうです。こうした場合、OTCで対応できるレベルではありません2)。ただのかぜなのかどうか、医薬品販売前にしっかり把握する必要があります。

どんな薬が良いのでしょうか?

市販されている小児用の総合感冒薬には(表1)のようにさまざまな種類がありますが、薬を選ぶ際に最低限、把握しておくべき情報は「年齢」「既往歴」「服薬歴」です。

薬を選ぶ前にこれだけは聞いておく

  • 今、おいくつ(何歳)ですか?
  • 医療機関で治療中の病気はありますか?
  • 現在服用している薬はありますか?
  • これまでかぜをひいたときに服用していた市販薬はありますか?
    ーそれはこの中(店内の棚)にありますか?

服薬歴は医療機関で処方された薬剤だけでなく、4のOTC医薬品の服薬歴、服薬タイミングの聴取が大切です。

かぜをひいたら「とりあえず、●●という薬を飲んでいます」というお客さんは、薬を薬剤師や登録販売者に選んでもらうというよりは、「単にその薬を買い求めているだけ」という可能性があります。あるいは、その薬のチョイスが専門家(薬剤師・登録販売者)から見て妥当である、という言葉を聞きたいケースもあります。

今回のケースは2歳6カ月の女児で、これまでに大きな病気をしたことはなく、現在服用している薬剤もないとのことでした。症状は「いつものかぜ」という感じで、特に鼻水がひどいとのこと。痰も少し絡んでいて、たまに咳をしてなかなか寝付けない様子。急いで来店したため体温は測ってこなかったものの、「熱っぽかったな」とのことでした。

市販されている小児用の総合感冒薬には、「2歳未満の乳幼児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむをえない場合にのみ服用」と注意喚起をしている薬剤もあります。ただ、22時というタイミングで、患者さんも困って来店しているときに、医療機関の受診を勧めるのも微妙な話かもしれません。

表1 市販されている主な小児用総合感冒薬

では、いよいよ「どんな薬がよいのでしょうか?」という質問にどう対応するかですが、僕自身はまず一言、以下のように伝えることが多いです。

(客)「どんな薬がよいのでしょうか?」

(青島)「いろいろな種類があるのですが、結局何が違うのか、ということですよね。含まれている成分の作用の仕方で薬の違いを説明することはできますが、実際、飲んで感じる効き目については、人それぞれだと思います。市販されている小児用の総合感冒薬は、基本的には同じような成分が配合されていますので」

どれを選んでも基本的に臨床効果は変わらない、ここがスタート地点です。ただ、「どれでもいいっすよ」と決して投げやりにならないことが大切です。お客さんも「適当な薬剤師ですねっ」となってしまいます。ポイントは付け加える説明の仕方にあります。

「ただ、これは無水カフェインという成分が入っているので、ちょっと寝付きが悪くなるかもしれませんね」とか、「顆粒は飲めますか? シロップ剤もあります」

といったように、有効性はどれを選んでも大差ないけれど、有害性の観点からあまりお勧めできない薬や、剤形に関する違いはありますよ、というような情報を付加すると、お客さんのニーズにより対応しやすくなると思います。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする