鎮咳薬「どんな咳止めがイイですか?」- 後編

医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一

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咳嗽対するOTC医薬品の有効性・安全性

さて、鎮咳薬にはどの程度の効果があるのでしょうか。2014年に急性咳嗽に対するOTC医薬品の有効性・安全性を検討したシステマティックレビュー8)が報告されています。この研究では、29研究(成人19研究、小児10研究)に参加した 4,835例(成人3,799例、小児 1,036例)がレビューの対象となりました。

成人を対象にした研究では、グアイフェネシンとプラセボを比較した3件の研究のうち1件の研究で有意な咳嗽症状の改善効果が示されましたが、2件の研究では有意な差がありませんでした。コデインに関しては、レビューされた2研究とも、有用性は示されませんでした。デキストロメトルファンについては3研究がレビューされていますが、このうち2研究で咳嗽の頻度が減少したという結果でした。

また、小児を対象とした研究では、テキストロメトルファンが3研究、抗ヒスタミン薬が3研究レビューされていますが、いずれも明確な効果は示されませんでした。

有害事象については、抗ヒスタミン薬とデキストロメトルファンを含む製剤を服用していた人で多く見られたとしています。総じて、急性咳嗽に対するOTC薬の有効性はほとんど期待できないという結果になっています。

2017年に報告された米国胸部医学会(American College of Chest Physicians:ACCP)の専門委員会が作成したレポート9)でも、かぜに伴う急性咳嗽に、カルボシステインのような去痰薬やNSAIDs、市販のかぜ薬は推奨できないとしています。また、このレポートでは、小児患者(18歳未満)の一般的なかぜによる咳嗽では、呼吸困難を含む重篤な副作用の可能性があるため、コデイン含有医薬品の使用を避けることを推奨しています。

市販薬に配合されることの多いメチルエフェドリンについても、臨床効果を検討した質の高いエビデンスは存在しないのが現状です。メチルエフェドリンを含有した市販の感冒薬と、漢方薬を服用して脳梗塞を発症した32歳女性の症例10)も報告されており、安易な使用は考えものです。

害ばかりで効果はないのか...

はてさて、OTC鎮咳薬に十分な有効性は期待できないどころか、副作用のリスクの方が多いかもしれない、という現実...。しかし、目の前の患者さんは、止まらない咳で苦しんでいる状態なのです。あなたとの会話中もゴホゴホと苦しそうです。どうしましょう...。

今回のケースでは、鎮咳薬の有効性・安全性についてお話する中で、それでも薬の方がよい、と患者さんが思うようであれば、有効性を示唆したエビデンスのあるデキストロメトルファンを含有する製剤を販売してもよいかもしれません。ただし、メチルエフェドリンが配合された医薬品はリスク・ベネフィットの観点からあまりお勧めできないようにも思います。

副作用の観点から、「じゃ、薬はやめといた方がよいですかねぇ...」 という流れになった場合はどうでしょうか。あるいは、エビデンスの観点から薬剤の選択肢が限られる小児のケースではどう対応すればよいでしょうか。

実はハチミツが咳嗽に効果的である、という文献報告が複数存在します。小児については、2018年にシステマティックレビュー11)が報告されました。この研究によれば、ハチミツは咳嗽症状を軽減し、その効果はデキストロメトルファンと比較しても遜色なく、ジフェンヒドラミン、およびプラセボよりも咳を軽減する可能性が示されています。

ただし、1歳未満の小児では、ハチミツの摂取により乳児ボツリヌス症を発症することがあり、避けるべきです12)。一般的に、ハチミツは包装前に加熱処理を行わないため、ボツリヌス菌が混入している場合があります。1歳未満の乳幼児では、ボツリヌス菌芽胞の発芽を妨げる腸内細菌叢が備わっていないことが多く、乳幼児ボツリヌス症を引き起こすリスクが高いのです。

ハチミツに効果があるとして、どれくらい摂取すると効果的なのでしょうか。咳嗽に対する有効性が示された1~5歳までの小児300例を対象としたランダム化比較試験13)では、蜂蜜10gを就寝30分前に単回投与となっていました。年齢にもよりますが1回10gを食べさせるのはちょっと大変かもしれません。ハチミツが大好きな子であれば問題ないでしょうが...。

患者さんのニーズを把握しよう

小児であれば第1回で紹介したヴィックス・ベポラップや、プラセボ効果の積極的な活用も十分に検討の余地があります。小児において、コデインを含む薬剤は推奨すべきではないとするACCPのレポートや、小児での急性咳嗽に対する鎮咳薬のエビデンスが限定的なことを踏まえれば、こうした選択肢の方がより安全で効果的といえるでしょう。

ちなみに2016年に報告されたコクランシステマティックレビュー14)でも、小児期の慢性咳嗽治療において、コデインを評価したランダム化比較試験は存在しないとし、小児の咳嗽治療におけるコデインまたはその誘導体を使用することは控えるべき、と結論しています。

他方で、成人については、2013年にハチミツとコーヒーの組み合わせが感染症後の持続する咳に有効かもしれないというランダム化比較試験15)が報告されました。この研究では、感染症から3週間以上続く咳嗽症状を有する成人患者97例(平均年齢40.1歳)が対象となっています。

持続期間からすると慢性咳嗽ですが、この研究では他の原因による慢性咳嗽、全身性疾患などは除外されています。コーヒーを1日3回2.9gとハチミツを20.8g摂取する群、プレドニゾロン13.3mg を1日3回服用する群、グアイフェネシン25mgを1日3回服用する群の3群にランダム化割り付けし、咳症状スコアを比較していました。その結果、コーヒーとハチミツを摂取した群はプレドニゾロン群と比較して咳症状スコアの有意な改善が示されました。主な結果を(表2)に示します。

※原著論文では25gになっていますが、25mgの誤りだと思われます。

コーヒーに含まれるカフェインは、喘息患者の呼吸機能を改善する16)ことが知られています。ハチミツの鎮咳作用と組み合わさることにより、日中の咳嗽症状緩和に効果が期待できるかもしれません。ただ、寝つきが悪くなることもあるので、就寝前のコーヒー摂取はあまりお勧めできません。

表2 成人における咳嗽に対するハチミツコーヒーの効果

 文献15より筆者作成

また、慢性咳嗽に対しては、コデインやデキストロメトルファンの有効性を示唆したメタ解析17)の報告があります。したがって、3週間ほど咳嗽症状が長引いている成人の場合、重篤な疾患の可能性をほぼ除外できるのであれば、"最後の奥の手" という感じで、その使用を考慮できるかもしれません。ただし急性咳嗽に対する効果はそれほど高くはないので、その場合には患者さんのニーズに合わせて、ハチミツなどを推奨することも視野に入れるとよいでしょう。

「薬をどうしても飲みたい(薬を飲むこと=症状が緩和する)」と考えているのか、それとも「咳そのものをなんとかしてほしい(手段はなんでもよいので症状を緩和したい)」のか、患者さんのニーズは大きく2つに分けられます。こうしたニーズを会話からくみ取り、エビデンスの押し付けにならないよう(この場合、効き目はありません、というような)注意が必要です。

OTC販売では、やはりプラセボ効果を味方に付けることは肝要です。プラセボは、無治療に比べて咳の頻度を有意に減少させたとする研究18)も報告されており、薬の効果を最大限に高めるのは、薬剤師の説明の仕方にかかっていると言っても過言ではないでしょう。こうしたプラセボ効果を利用するのならば、例えばトローチのような製品でも、咳嗽症状をうまくコントロールできるかもしれませんね。

【連載コンセプト】
薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。

【プロフィール】
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保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。
普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。

公式ブログ:思想的、疫学的、医療について
Twitter:@syuichiao89

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