ウィズサポ/株式会社ジョヴィ川村 和美 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。 次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか? 「そんな薬飲みたくありません」 私は、勤務3年目の病院薬剤師(27歳)です。 薬剤師には情報提供義務があるため、すべての副作用について一通り伝えることにしています。ところがある日、服薬指導を担当したGさん(61歳、女性)に処方された薬の副作用について説明をしていると、「そんな恐ろしい薬は飲みたくありません!!」と言われてしまいました。すぐに服薬の必要性を懸命に伝えましたが、「結構です」「もういいですから」と取りつく島がありません。 主治医より説明してもらって、何とか服薬に至りましたが、この一件から、薬剤情報の提供に自信がなくなってしまいました。 あなたなら、今後の服薬指導についてどのように考えますか? あなたならどうしますか? 情報提供は薬剤師法に規定された義務であるため、今後もすべての副作用を包み隠さず伝え、服薬を拒否する患者が現れたとしても、それは仕方がないと思う。 不安を与えないよう言葉を選んだ副作用の説明を心がけ、問題になったときには今回のように主治医と連携して何とかしてもらう。 より多くの患者に該当する可能性のある、発現率の高い重篤な副作用の初期症状に限って、今後は伝えるようにする。 患者が主体的に服薬してくれるよう、効果を過大に、副作用を過小に伝えるという工夫をする。 患者の服薬拒否を回避するため、副作用については極力触れないようにし、これからは用法用量を中心とした説明にする。 あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは? 5つの視点から考えてみよう! このケースを考える上で、大切なポイントを【薬学的な視点】【利用者の視点】【関係者の視点】【状況の視点】【QOLの視点】の5つから解説していきます。 ◆薬学的な視点医薬品適正使用と医療安全の管理は重要 薬剤師には、薬の系統(構造)、患者さんの体質、併用薬、服用歴、副作用歴(アレルギー歴)等の情報から、個別に副作用発現のリスクの高さを考慮するという専門性が求められています。チーム医療の中で、特にハイリスクが危惧される患者さんに対する医薬品適正使用と医療安全の管理を推進することは、医療の質の向上に極めて重要です。 ◆患者の視点副作用が怖くなり服薬を中止してしまう可能性 どの薬の添付文書にも、多くの副作用が記載されています。中には、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死融解症、薬物性肝障害、ネフローゼ症候群、間質性肺炎、再生不良性貧血など、恐ろしい副作用が発現した薬もあります。しかし、それらの副作用を懇々と伝えられた場合、多くの患者さんは怖くなって服薬をちゅうちょするでしょうし、服薬が嫌になって中止してしまう患者さんがいるかもしれません。 ◆関係者の視点服薬の有用性が副作用の危険性を上回ると判断して処方 どの薬にも副作用発現の危険性がありますが、主治医は必要性があって、それらを処方しています。つまり、その服薬の有益性は副作用の危険性を上回ると判断されているのです。それなのに、薬剤師がネガティブな副作用情報ばかりを並べて、患者のモチベーションを下げたとしたら、治療しにくくなるでしょう。薬剤師は医療チームの一員として業務を行うわけですから、医師がスムーズにインフォームド・コンセントできるような情報提供が求められるでしょう。 状況の視点患者自身が初期症状に気付き適切に対応できるような情報提供を 重篤な副作用は一般的に発生頻度が低く、どの患者さんにも同じ割合で発生するわけではありません。多くの場合に初期症状が現れますが、必ずしも医療者の目の前で発現するわけではないため、患者さん自身が早い段階で異常に気づき、適切な対応が取れるよう、その副作用を回避するための情報を提供することが医療者には求められています(高松高等裁判所平成8年2月27日判決)。 ◆QOLの視点副作用が発現したらQOLは著しく下がる 重篤な副作用が発現したら、患者さんのQOLは著しく下がります。何も聞かされていなくて、そんな経験をしたなら、医療者への不信感も相まって、さらにQOLは下がるでしょう。一方で、ありとあらゆる副作用情報を聞かされたとしたら、飲みたくないという気持ちと、服薬をしなければならない状況に、ネガティブな感情を抱かざるを得ないでしょう。現在、治療効果の高い薬剤がますます上市され、服薬をしなければ、治療効果は望めないケースが多くなってきています。 それぞれの対応は望ましい? 下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。 あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。 ⇒【解説】副作用はどこまで伝えたらいいのか?