つらくて飲めない抗がん剤の残薬

薬剤師必見!残薬管理この一手! Life happy well 福井繁雄

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

LIFE HAPPY WELL
福井 繁雄

19歳のある日、「薬飲んだら頭痛くなるんよ」という祖母の一言をきっかけに、残薬について考えるようになった僕。それから薬剤師になり、残薬解消のための活動を始めた。

このコラムでは、薬局薬剤師の僕が、在宅や薬局での業務の中で行った残薬に関する取り組みを紹介する。僕の奮闘記が全国の薬剤師の励みになるだろうかーー。

この記事のポイント

  • 残薬や不動在庫が多い抗がん剤
  • 父のお薬ボックスからも大量に
  • 「副作用がつらくて飲めない」と言う患者さん
  • 負担を軽減させる飲み方を考えよう

残薬や不動在庫が多い抗がん剤

 抗がん剤は、残薬がよく出る。副作用が出て、中止するケースが多いからだ。

 患者宅では残薬として、薬局では不動在庫として薬が残る。ティーエスワンやゼローダなどが、薬局の棚に置かれたまま動かない風景はお馴染みだ。

 先日も、抗がん剤の薬局間分譲をした。分譲が多いのはユーエフティー。これは、ユーゼルとセットになることが多く、余ればさらに不動在庫が増える。薬品卸に発注するのは簡単だが、不動在庫になってしまったら、意味がない。チャンピックスやオテズラのようにスターターキットがあればよいのにと、よく考える。

第10回図3_190610.jpg

患者さん宅からは、さまざまな残薬が出てくる

父のお薬ボックスからも大量に

 私の父は、大腸癌、そして肺癌になった。闘病中(2010年)は、たくさんの薬を飲んでいた。そのときは分からなかったが、亡くなってから出てきたお薬ボックスには大量の残薬が入っており、なんとも言えない気持ちになった。下血をすれば服薬に不安を感じる。ましてや、副作用がきつい。だから、服薬を止めていたようだ。

 残薬を眺めていたら、末期に内服薬が飲めず、点滴をしていた父の姿が浮かんできた。

 漢方も山ほど残薬で発見した。大建中湯。便秘や腸閉塞を予防するといわれている。がん治療では術後の便秘に効果があると、よく使われる漢方だ。なにかよい飲み方は、なかったのか。朝晩2回にするとか。昼食前の漢方は、飲み忘れが多い。大量に出てきたツムラの大建中湯は、1回5グラムで1日3回。これを飲み続けるのは、根気が必要だ。

 1日3回以上服薬する薬は、コンプライアンスが非常に低下する。全ての処方を1日2回に統一できないものか。好例となるのが小児科の薬だ。生活リズムを考慮して1日2回になりつつある。朝と学校帰りに服用するようにだ。

 癌患者さんもしかり。飲むべき薬をきちんと飲めるよう、服薬回数を減らしたい。重要な課題である。

「副作用がつらくて飲めない」と言う患者さん

 抗がん剤の残薬は、「副作用がつらい」「飲んでみたものの、怖くてやめた」という場合が多い。薬局では、副作用がつらいという患者さんには、「無理して服薬しなくてもいいよ」と伝えている。「副作用は我慢するもの」と思い込んでいる方もいる。しかし、副作用が効果を上回ってはならない。我慢して体力が低下してもよくない。だから、投薬の度に患者さんの話をしっかりきき、どんな状態なのか、確認する。

 一方、初めて飲む患者さんには、副作用の説明はしっかりと行った上で、「怖かったり、つらかったら相談してね」と加えている。抗がん剤の服薬をどのように捉えているのか、教えてもらうことが大切だからだ。

 副作用がつらいと相談を受けたら、すぐに医師に報告する。この場合、副作用に効果のある薬で対処するか、休薬するケースが多い。減量や服薬期間の短縮を行う場合もある。体内から薬剤が抜けるまでに時間がかかる場合には、副作用が治まるまで、患者さんに頑張ってもらわなければいけない。皮疹は、痕が残ることがある。

 残薬が多いティーエスワンの主な副作用は、吐き気、腹痛、下痢など。ゼローダには、手足が黒くなり、ひび割れる副作用がある(手足症候群)。ゼローダの副作用に対して、ヒルドイドソフトを基質にしてウレパール、アンテベート軟膏を混合して作る特別な軟膏を出している。

負担を軽減させる飲み方を考えよう

 抗がん剤のコンプライアンスが悪いと、頑張って服薬しても治療がうまくいかないことがある。飲むのであれば、服薬方法を守ってもらうのが肝心。これに対して薬剤師ができる服薬支援は、副作用への対応だ。患者さんの負担が少なくなる飲み方を考えていきたい。

 抗がん剤に関しても、パルス療法や再チャレンジという方法がある。副作用がきつすぎて休止というのは、よくある話。患者さんの気持ちとタイミングに合わせて治療を行っていけばいいと思っている。

 抗がん剤の治療で最大の障害となっている副作用。「つらい、つらい」という患者さんも、副作用がなくなると生きる意欲が湧いてくるようだ。ある患者さんは、外来化学療法の後はいつもぐったりとしていた。あるとき、吐き気に対して処方されたイメンドを薬局で服用した。後日、「吐き気が劇的に治ったので、タクシーには乗らずに、花見をしながら歩いて帰ったのよ」と話してくれた笑顔が印象的だった。

第10回図1_190610.jpg

2第10回図2_190610.jpg

集まった残薬は、会社の理事にも手伝ってもらい、薬剤師と手分けして整理する

【福井繁雄氏プロフィール】

薬学部卒業後、透析、CKD、ガン専門の薬局に13年勤務し、現在は在宅医療に関わっている。学生時代から行ってきた家族(特に祖母)のお薬管理を通じて、残薬管理に疑問を持ったことが、在宅医療に関わるようになった理由。これまでの経験を他の薬剤師にも生かしてもらいたいと、全国での研修会を月一回、行っている。自身は、生後3週間でアトピー性皮膚炎を発症し、リバウンドも経験。アトピー罹患者としての講演も行っている。

【研修会】

日本薬剤師研修センター認定の研修を月1回開催しています。
開催スケジュール:日本薬剤師研修センター受講シール2単位取得研修会(LIFE HAPPY WELL)

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする