消失した血糖管理の遺産効果

VADT研究の15年フォローアップ解析

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:「早期からの介入効果は長く続く」と信じてきた

 2008年の米国糖尿病学会(ADA)において報告された3つのランダム化比較試験(RCT)の結果は、血糖管理と合併症の関係性に関する認識について大きな変化を与えた。すなわち、HbA1cと糖尿病合併症の関係性は"The lower, the better"ではなく、低血糖や血糖変動を意識しないで盲目的にHbA1cを下げてしまうと動脈硬化症の予防はできず、下手をすると全死亡率が上昇するということである。その3つの研究とはACCORD(N Engl J Med 2008;358:2545-2559)、ADVANCE(N Engl J Med 2008;358: 2560-2572)、VADT(N Engl J Med 2009;360:129-139)である。

 その一方で、その年に論文化された複数のRCTの結果は、早期に血糖を含めて多面的に糖尿病患者を管理することの重要性を示した(UKPDS80:N Engl J Med 2008;359:1577-1589、Steno-2:N Engl J Med 2008;358:580-591)。この早期からの介入がその後長く合併症予防に対して効果を発揮することを、われわれは遺産効果(Legacy Effect)、あるいは代謝上の記憶(Metabolic Memory)と呼んできた。

 故に2008年以降、われわれは低血糖を避けつつ、早期から血糖・体重・血圧・脂質の多面的介入をすることで、糖尿病患者の三大合併症・心血管イベントを予防でき、ことによると全死亡率の低下まで期待できるだろうと信じてきた。

 しかしこのたび、VADTのフォローアップデータが報告され(N Engl J Med 2019;380:2215-2224)、なんと15年の時点でLegacy Effectが認められなくなったという。VADTの10年フォローアップではLegacy Effectが認められていたというのに、である(N Engl J Med 2015;372:2197-2206)。血糖管理に対するわれわれの認識を揺さぶる可能性があると考え、ご紹介したい。

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