「それは確認しちゃダメ」

門前医の処方に違和感を感じたときどうするか?

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

ウィズサポ/株式会社ジョヴィ
川村 和美

 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に頼らずそのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。

 次のケースに遭遇した場合、あなたならどう考えますか?

「それは確認しちゃダメ!」
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 私は、先月からこの保険薬局に異動してきた薬剤師です。

 ある日、62歳男性のIさんに投薬をしようと調剤された薬を確認したところ、門前医からグリメピリドが単剤で処方されていました。

 受診の経緯を聞いてみると、数カ月前の健診で糖尿病の疑いを指摘されて受診したところ、薬が処方されたいうことです。

「健診のときに気を付けるように言われたんだけど、自分は出されたものを食べるしかないし、外食で済ませるときはどうしても好きなものを選んじゃうよね。仕事から帰ってきて疲れているのに、改めて運動をする気持ちにはなれないし。薬を飲んでよくなるなら、手っ取り早いかなぁと思って。まぁ、面倒だけどね」とも伺いました。肥満は明らかで、健診の際に食事療法や運動療法の必要性は聞いたようですが、その重要性を理解していないようです。

 今回、IさんにSU薬を処方するのは、不適切に感じられたので、医師に問い合わせようと電話を取ると、同僚から

「向かいの先生にSU薬のことを聞こうとしてるなら、止めておいた方がいいよ。あの先生、どんな患者さんにも糖尿病だったらSU薬だから」と言われました。

 あなたならどうしますか?

あなたならどうしますか?

a_02.jpg医師ともめるのはよくないので、同僚のアドバイスを受けて、このまま調剤する。
b_02.jpgこの医師には照会できないことが分かったため、患者に考え得る服薬の注意点をしっかりと伝える。
c_02.jpg将来的に適切な処方となることを願って、医師にガイドラインの概要や論文等を届け続ける。
d_02.jpg疑義照会をやめておいた方がいいという同僚の認識は間違っているため、そんなことではいけないと言って、薬局の在り方を改善する。
e_02.jpgこの処方は不適切なので、医師に照会し、納得のいく回答が得られるまで調剤しない。

 あなたは、何番を選択しましたか?あるいは、別の方法を考えたでしょうか。このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。
※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは?

5つの視点から考えてみよう!

 このケースを考える上で、大切なポイントを【薬学的な視点】【患の視点】【関係者の視点】【状況の視点】【QOLの視点】の5つから解説していきます。

◆薬学的な視点
ガイドラインでは生活習慣の是正に加えてメトホルミンが第一選択

 糖尿病診療ガイドラインや治療ガイドラインによると、肥満糖尿病患者においてはエネルギー摂取制限と生活習慣改善による体重減少(>5%)が血糖・脂質・血圧に対し効果があり、生活習慣の改善に加えてメトホルミンが第一選択薬であるとされています1)

 体重に合わせて500~750kcal/日減少する、週に3回以上、合計150分以上の有酸素運動をするといったような、具体的な食事療養や運動療法に取り組む必要がありますし、薬物療法が開始されたとしても、食事療法や運動療法には継続の必要があることを、Iさんに十分ご理解いただかなくてはなりません。心血管疾患・慢性腎臓病(CKD)・心不全の有無、低血糖リスク、体重、副作用、医療費、Iさんの思考などのファクターから評価して、適切な薬剤を選択したいところです。

1) 米国糖尿病学会2019年版診療ガイドライン:American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes-2019. Diabetes Care 2019

◆患者の視点
食事療法の重要性をまず理解すべき

 Iさんのお話から、糖尿病治療における食事療法や運動療法の重要性は理解しておらず、薬物療法が開始となっても両療法は引き続き必要だという認識をお持ちではないように感じられます。まずは、食事療法・運動療法・薬物療法の位置付けをきちんとご理解いただかなければなりません。外食時における食品交換表を用いたメニューの選び方や、単位計算の方法もご修得いただく必要があります。ご本人が納得して実行できそうな、具体的な献立や運動スケジュールを提案し、まずはそれらを実現できるようにサポートしたいところです。血糖コントロールが叶えば、薬物療法はもっと先でよくなるかもしれません。こうした情報を十分に聞かされないまま、治療を開始されてしまうと知ったら、また、治療を開始した場合に後戻りができないかもしれないと分かったら、Iさんはきっと悲しいと思われるのではないでしょうか。

◆関係者の視点
同僚・処方医・ご家族それぞれの認識を確認

同僚:同僚は、なぜ疑義照会を止めておいた方がいいと言ったのでしょう。おそらく、この保険薬局ではこの医師に対し、同じような問い合わせを繰り返ししてきており、疑義照会について保険薬局内で共有された認識がありそうです。

処方医:処方医が第一選択薬にSU薬をチョイスする理由は何なのでしょうか。処方変更の提案に応じない姿勢を取る理由も、きっと何かあるはずです。

ご家族:「出されたものを食べるしかない」という発言から、ご家族はIさんが糖尿病であることをご存じない可能性や、知っていても食事療法の重要性をあまり理解していない可能性が高いでしょう。

状況の視点
勤務状況、家族構成、1日のスケジュールなどを考慮すべき

 Iさんを取り巻く環境は、どのようなものでしょうか。

 年齢とご発言から、就業していると予測できます。その業務は軽労働なのか重労働なのか、勤務時間は何時から何時なのか、通院や服薬に支障はないか気になります。食生活も極めて重要です。「出されたものを食べるしかない」という会話から、食事はご家族がつくっているようです。だとすれば、ご家族の構成を教えていただき、家事を担当されている方が糖尿病の食事療法について、ご理解・ご協力いただけるような支援も必要です。年齢や業務内容、1日のスケジュールを考慮した上で、どんな運動なら取り入れられそうか、Iさんとご相談すべきでしょう。

◆QOLの視点
インスリン導入をできるだけ避けられるよう長期的な転帰まで考慮する

 糖尿病の初期からSU薬を用いると、早い段階で患者さんご自身のインスリンが枯渇してしまう可能性が高まります。インスリンの導入時期が早まれば、お仕事や生活を制限されることも多くなりますし、在宅自己注射指導管理料のような加算もかさみます。

 先々まで考えると、高齢者施設の中には自己注射を要する患者さんを敬遠するところもあるようです。特養に入所していた場合、自己注射ができなくなった時点で療養型施設への転所を求められる可能性も考えられます。服薬の利便性や副作用といった観点からの処方の是非のみならず、考え得る今後の見通しまで考慮し、より高いQOLを長期的に保てるよう介入することが大切です。

それぞれの対応は望ましい?

 下の図は、さきほど選んでいただいた対応の一覧です。

 あなたが選んだ対応が医療者として望ましい対応かどうか、次の記事では5 つの視点から問題を整理し、総合的に判断して、検証をしてみましょう。

【解説】門前医の処方に違和感を感じたときどうするか?

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