胃がんで終末期の60歳代男性がオピオイドを拒否④

あなたはどう考える? 薬剤師の在宅ケーススタディ vol.3

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

出題者から

プラス薬局高崎吉井店 小黒 佳代子さん

時には薬剤師がリードし、家族も巻き込む

今回の出題の基となった事例があります。そのときは、ご本人の意思を確認したいとコミュニケーションを図っていましたが、なかなか本心を明かしてくださらず、人生を投げ出しているように見受けられました。お嬢様は介護のためにいらしてはくださるものの、泊まって一緒に過ごすようなこともなく、父娘関係は希薄そうに見えました。そこで、夜間1人のときに急変があったらどうするか、訪問看護師と相談していました。

ご本人はほとんどリビングで寝起きしており、夜になると寝室で休んでいるようでしたが、介護用のベッドを入れるのも嫌がり、歩行器で廊下を歩いて移動していました。一度、トイレに行こうとして歩行器ごと玄関の段差から転落してしまったこともありましたが、生活を変えようとはされませんでした。ご本人の携帯に訪問看護師と私の携帯番号を登録し、1番を押すと訪問看護、2番を押すと私というように、すぐにかけられるようにセットしました。

また、このまま亡くなってしまったら、残されたお嬢様はいつか悔やまれるのではないかとも考え、お嬢様やお孫さんが介護したという実感を持っていただけるようにしたいと、訪問看護師と話し合いました。お嬢様とお約束して訪問し、皮膚の痒みに対して軟膏をどれくらいの量、どのように塗ったらよいか、塗り方をお嬢様に指導し、1日2回塗布していただくようにお願いしました。指導の間、ご本人は眼をつむり、黙って塗ってもらっていたのが印象的でした。その後、皮膚状態は劇的に良くなりました。

疼痛コントロールについても「どうせ死ぬ」と、お勧めしてもなかなか聞き入れてくれず、訪問看護師が定期的にジクロフェナクナトリウム坐剤を使用していました。しかし、ある日、私が訪問したときに、突然私にしがみついて「もう苦しくてたまらない。楽になりたい」とおっしゃいました。「つらいですね。もう少し強い痛み止めを使ってもいいですか?」と言うと、うなずかれました。すぐにモルヒネの坐剤を処方してもらい、再訪問して使用し始めました。リビングに介護用のベッドも入れました。数日後、これが最後かと思われる訪問の日に、「今日は泊まります」とお嬢様がおっしゃって下さいました。その晩、お嬢様ご夫妻とお孫さんに囲まれながら、その方は亡くなられました。

比較的若い独居男性のがん患者で、意思の強い方でしたが、ギリギリまでお一人の生活を貫き、この方らしい最期だった思います。会話は非常に少ない父娘でしたが、最期は少し通じ合えたのではないかと思っています。

前の記事:私たちはこう考える

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在宅アドバイザープロフィール

有限会社丸山薬局 大石 和美さん

父の介護がきっかけで在宅に本格的に関わる。自分も地域の一員であることを忘れず、その人の生き方を邪魔しないプロフェッショナルであろうと心がけている。在宅歴25年、月平均の在宅訪問件数約50件(算定はそのうち約半分)

プラス薬局高崎吉井店 小黒 佳代子さん

患者さんのもっと近くで薬剤師として働きたい、患者に寄り添いたいという思いから在宅を始める。在宅歴10年、月平均の在宅訪問件数約100件

メディスンショップ蘇我薬局 雜賀 匡史さん

在宅訪問を実施している薬局に就職し、医療だけにフォーカスを当てて患者に接するのではなく、生活の一部としての医療を考えることのできる薬剤師を目指している。在宅歴約10年、月平均の在宅訪問件数約80件

ファーマライズ株式会社 ひまわり薬局 佐藤 一生さん

モットーは「人は、在宅医療を通じて幸せになれる」。在宅歴11年、月平均の在宅訪問件数約40件(個人宅30件、施設10件)

有限会社フクチ薬局 佐藤 香さん

体調が悪化して来局できなくなった患者に会うために、薬を自宅に届けたことから、在宅の道へ。利用者、家族それぞれの生活とキャラクターを理解し、ニーズに合った医療の提供を心がけている。在宅歴9年、月平均の在宅訪問件数8件(個人宅7件、施設1件)

有限会社フクチ薬局 福地 昌之さん

在宅総合診療を行っていた医師からの依頼で、患者宅へ薬を届ける形で在宅をスタート。在宅では、いかに過ごしやすい日々を送れるかを重視して対応している。在宅歴23年、月平均の在宅訪問件数約35件

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