ドライアイ治療薬~目がゴロゴロするのですが、どんな目薬がイイですか?- 後編 医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「目がゴロゴロするのですが、どんな目薬がイイですか?」 ドライアイの定義と診断基準 ドライアイの疫学 ドライアイがもたらす健康への影響 ドライアイの治療概念と市販で購入できる点眼薬 ドライアイ治療薬の有効性 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ ソフトサンティア(参天製薬)/なみだロートコンタクト(ロート製薬)/ノアールCL(佐藤製薬)/アスパラ目薬モイストCL(田辺三菱製薬)/なみだロートドライアイコンタクトa(ロート製薬)/アイボントローリ目薬ドライアイ(小林製薬)/サンテドライケア(参天製薬)/新ロートドライエイドEX(ロート製薬)/Vロートドライアイプレミアム(ロート製薬)/スマイルピットドライアイ(ライオン)/新マイティアA(千寿製薬) ドライアイの治療概念と市販で購入できる点眼薬 ドライアイが多因子的な疾患であることは冒頭に示しましたが、日本と欧米でその病態概念の把握が異なっており、治療に対する考え方に大きなギャップがあります。日本では眼の乾燥状態に注目し、涙液層の安定化を目標に治療が行われることが一般的ですが、欧米ではドライアイを炎症性疾患として捉え27)、涙液層の安定化を目的とした治療だけでなく、ステロイドやシクロスポリン、タクロリムスなどによる抗炎症治療も行われています10)。 涙液層の安定化を目指すという日本の治療概念は、2016年の診断基準の改訂に伴い、より重視されるようになってきました。そのような中で、新しいドライアイの治療概念、TFOT(ティーフォット:Tear Film Oriented Therapy、眼表面の層別治療)28)が定着しつつあります【図】。 【図】ドライアイ疾患に対する新たな治療戦略:TFOT 〔ドライアイ研究会公式サイト( http://www.dryeye.ne.jp )より許可を得て転載〕 OTC医薬品として購入できるドライアイ症状改善薬(人工涙液製剤)も、涙液層の安定化を目的とした薬剤です。【表3、4】。 【表3】ソフトコンタクト装用時にも使用可能なドライアイ症状改善薬 (筆者作成) 【表4】ソフトコンタクト装用時に使用できないドライアイ症状改善薬 (筆者作成) ドライアイ治療薬の有効性 ドライアイ症状に対する人工涙液製剤の有効性について、ランダム化比較試験(準ランダム化を含む)43件(解析対象3497人)のシステマチックレビューとメタ解析29)が報告されています。 このレビューには、塩化ナトリウムや塩化カリウムのような電解質のみを含む点眼液の有効性を評価した試験は組み入れられていませんでした。電解質のみを含む点眼液は、動物実験30)においてその有用性が示唆されていますが、人での有効性を検証した質の高いエビデンスはほとんどないようです。眼の乾燥状態を物理的に改善することから、症状緩和にも一定の効果があると思われますが、その効果は一時的なものにとどまるかもしれません。他方、粘稠剤であるカルボキシメチルセルロースについては、プラセボと比較した1件の試験がレビューに組み入れられており、ドライアイ症状に対する有用性が報告されているとしています。 ドライアイ症状に対するカルボキシメチルセルロース配合の人工涙液製剤については、ヒアルロン酸点眼との非劣性試験31)が報告されています。この研究ではドライアイ患者82人を対象として、眼表面疾患指数(OSDI)スコアが検討されました。その結果、両群に有意差を認めず、カルボキシメチルセルロース配合人工涙液製剤の非劣性が示されています。 ヒアルロン酸点眼液はドライアイ症状に用いられる代表的な医療用医薬品ですが、複数の研究でその有用性が報告されています32, 33)。したがって、電解質のみを配合した人工涙液製剤よりも、カルボキシメチルセルロースの類似成分であるヒドロキシエチルセルロースやヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を配合した人工涙液製剤の方が、より効果的かもしれません34, 35)。ただし、粘性が高い目薬では、視界がぼやけたり、まつ毛にこびりついたまま固まって乾燥するという、美観的な不便があることにも留意が必要です。 コンドロイチンには理論上、角膜を保護する作用が期待できます。食品添加物であるキサンタンガム(増粘剤)/コンドロイチンの配合点眼と、ポリエチレングリコール/プロピレングリコール/ヒドロキシプロピルグアーガム配合点眼(米国でSystane®の商品名で販売されている点眼液。本邦未承認薬)の比較試験36)では、コンドロイチン/キサンタンガムで有意な症状改善が見られたと報告されています。しかしながら、コンドロイチン単独の有効性をプラセボと比較した臨床試験は報告されていないようです。 結局のところどうする? 総じてエビエンスの質が低く、研究報告も少ないため、点眼薬の使い分けに関して決定的な見解を得ることは困難です。そのような状況の中で、あえて使い分けを考えるとするならば、電解質に加え、ヒプロメースやヒドロキシエチルセルロースを含有した点眼薬は選択順位が高いといえるかもしれません。 コンタクトレンズ装用者には「なみだロートコンタクト®」もしくは「アスパラ目薬モイストCL®」がお勧めできるでしょう。両薬の臨床的な有効性について、決定的な差異はないので、単純に価格や好みで選んでもらえばよいと思います。ただし、粘性が高い目薬は視界がぼやけるなどの症状や、薬液が乾燥し、固形物がまつ毛や目の周囲にこびり付くなど、美観面に注意したいところです。 「新マイティアA」にはベンザルコニウムが添加物として配合されており、過剰使用による角膜障害リスク37)に注意が必要かもしれません。またコンタクトレンズ装用者が使用する場合は、必ずコンタクトレンズを取り外してから点眼し、再装用までは5~15分ほど空けた方がよいでしょう38)。 コンドロイチンを配合した点眼液は、コストに見合う効果が期待できるかどうかについての研究データが限定的です。もちろんその使用を否定するものではありませんので、お客さんの好みで選んでもらえればよいと思います。清涼感を期待したい人はメントールを配合した点眼薬を選ぶとよいかもしれませんが、添付文書上、ソフトコンタクトレンズを装用したまま点眼できない製剤もあるので、注意が必要です。 また、生活環境を改善することでドライアイ症状の軽減が期待できるかもしれません。例えば、加湿器の導入39)や、炭水化物を減らすような食事と適度な運動をするなど生活習慣の是正40)がドライアイ症状の緩和に有用であると報告されています。とはいえ、いずれの研究報告も介入前後比較での検討であり、研究結果の妥当性は必ずしも高くはありません。なお、n-3系不飽和脂肪酸がドライアイに有効であるという理論仮説もあるそうですが、ドライアイ患者535人を対象とした二重盲検ランダム化比較試験41)では、プラセボと比べて症状スコアに明確な差を認めませんでした。 マキベリーエキス(MaquiBright®)という健康食品が、ドライアイの改善に有用であるいう研究報告もあります。この研究は30〜60歳の日本人74人を対象としたランダム化比較試験42)です。被験者はマキベリーエキス群37人とプラセボ群37人にランダム化割り付けされ、摂取4週間後の涙液分泌量を比較検討しました。その結果、プラセボ群と比較してマキベリーエキス群で涙液分泌量が統計学的に有意に多かったことが示されています。他方でBUTに関しては両群で有意な差を認めず、2016年改訂の診断基準を満たすドライアイ症状に対して、臨床的な効果が期待できるかどうかは不明です。 マキベリーエキスは、チリ原産のホルトノキ科の植物であるマキ(チリアン・ワインベリー)の実を原料とするエキスで、その主成分はアントシアニンです43)。安全性も比較的高いものと思われるため、興味がある方は試してみるとよいかもしれません。 【参考文献/脚注】1) ドライアイ研究会. 日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016 年版) 2) Int J Med Sci. 2017 Feb 23;14(3):191-200. 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