胃腸薬~胃の調子が悪いのですが、どんな胃薬がイイですか?- 後編 医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「胃の調子が悪いのですが、どんな胃薬がイイですか?」 上部消化症状の有症割合とその特徴 上部消化管症状の病態生理学的背景 OTCで対応可能な状況を判断する 市販購入できる主な胃腸薬 治療薬の基本的な選び方 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ ガスター10(第一三共ヘルスケア)/アシノンZ錠(ゼリア新薬)/イノセアワンブロック(佐藤製薬)/ガストール錠(エスエス製薬)/スクラート胃腸薬錠(ライオン)/スクラート胃腸薬顆粒(ライオン)/スクラート胃腸薬S錠(ライオン)/スクラート胃腸薬S散剤(ライオン)/セルベール整胃薬(エーザイ)/新セルベール整胃薬(エーザイ)/パンシロンキュアSP(ロート製薬)/アバロン(大正製薬)/イノセアバランス(佐藤製薬)/新プロストマック(日邦薬品工業)/サクロン錠(エーザイ)/太田胃散(太田胃散)/キャベジンコーワα(興和)/パンシロンAZ(ロート製薬)/イーグロン(ユニテックメディカル) 市販購入できる主な胃腸薬 市販で購入できる主なOTC胃腸薬を【表4~6】にまとめます。なお、H2受容体拮抗薬(H2RA)の用量は、全て医療用医薬品の半量となっています。 【表4】胃酸分泌抑制薬 (H2RA:H2受容体拮抗薬 ムスカリンRA:ムスカリン受容体拮抗薬) (筆者作成) 【表5】総合胃腸薬(制酸・健胃・消化・整腸薬) (筆者作成) 【表6】漢方製剤 (筆者作成) 治療薬の基本的な選び方 上部消化管症状は多様ですが、①消化不良②腹部膨満感③胸焼け④逆流症状⑤食道の不快感―の5つに分類18)すると対応がしやすいと思います。①、②では消化酵素を配合した総合胃腸薬を中心に、③~⑤では、H2受容体拮抗薬など、胃酸分泌抑制薬を中心に考慮すればよいでしょう。ただし、総合胃腸薬に含まれていることの多いロートエキスや、ムスカリンRAのピレンゼピンは抗コリン作用を有するため、前立腺肥大患者、不整脈患者、潰瘍性大腸炎患者、甲状腺機能亢進症患者、重度の便秘患者などへの使用には注意を要します。 ■胃酸分泌抑制薬(③胸焼け、④逆流症状、⑤上部食道の不快感) 《ファモチジン:H2受容体拮抗薬》 ファモチジンの胃酸分泌抑制作用はラニチジンやシメチジンよりも強力かつ作用持続時間が長く、また薬物相互作用の懸念や有害事象の発生リスクも少ないことから、有効性・安全性に優れた薬剤といえます19)。上腹部痛、上腹部膨満感、胸焼けなど、上部消化管症状全般に効果が期待できる20)ため汎用性の高い薬剤です。 《ニザチジン:H2受容体拮抗薬》 ニザチジンの消化性潰瘍治療効果はプラセボよりも高いです21)が、胃内酸性度への影響や、胃食道逆流症(GERD)に対する治療効果は、ニザチジンよりもファモチジンで優れていることが報告されています22, 23)。ファモチジンを差し置いてまでニザチジンを選択すべき状況は少ないかもしれません。 《ロキサチジン:H2受容体拮抗薬》 ロキサチジンはラニチジンとの比較試験が幾つか報告されており、上部消化管症状に対する効果はほぼ同等です24~27)。とはいえ、承認用量において、ラニチジンがファモチジンよりも優れているとはいえない以上28~31)、ファモチジンに比べてどれほどアドバンテージがあるかは不明です。 《ピレンゼピン:ムスカリン受容体拮抗薬》 ピレンゼピンの高用量投与(100〜150mg/日)における消化性潰瘍治療効果はプラセボやゲファルナートよりも優れており、H2受容体拮抗薬であるシメチジンとほぼ同程度と報告されています32)。しかし、口内乾燥や視力障害などの有害事象が発現しやすいと指摘されている他、低用量投与(50mg/日)では胃潰瘍治癒率にプラセボと差が見られないことが報告33)されており、市販のピレンゼピン製剤(45mg/日)にどれだけ臨床的な効果が期待できるかは不明です。 ■胃粘膜保護薬(①消化不良、②腹部膨満感) 《テプレノン》 テプレノンは胃粘膜保護作用を有し34)、上腹部痛などの上部消化管症状の改善効果が期待できます35 ,36)。また、同薬にはNSAIDs長期投与時の胃粘膜損傷および消化不良症状の改善効果が報告されています37)が、その効果はファモチジンに劣るものと考えられます38)。 《アルジオキサ》 アルジオキサは胃粘膜保護作用39)や胃内容物排泄促進作用40)を有し、膨満感や胃のむかつきなど、軽度の上部消化管症状の緩和効果が期待できます。しかし、急性胃炎や慢性胃炎の急性悪化に対する効果は、同じく胃粘膜保護薬のセトラキサートに劣る可能性があります41)(ちなみに【表4】には取り上げませんでしたが、セトラキサート配合OTC医薬品には新センロック錠®があります)。 《スクラルファート》 スクラルファートは胃潰瘍に対する治療効果がラニチジンとほぼ同等であり、潰瘍の再発率もプラセボより優れていることが報告されています42, 43)。ラニチジンに劣るとの研究も複数ありますが44, 45)、H2受容体拮抗薬に劣ることが一貫して示されている他の胃粘膜保護薬よりも、優れた効果が期待できるかもしれません。H2受容体拮抗薬の使用が難しいケースに優先的に考慮したい薬剤です。 《ソファルコン》 胃粘膜保護作用を有するソファルコン46, 47)は、H. pyloriに対する抗菌作用があり48, 49)、ラベプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンとの併用で、H. pyloriの除菌率を高めます50)。また、ソファルコンは、H. pyloriに感染している胃潰瘍患者において、除菌除療法後7週間における潰瘍治癒効果がシメチジンと同等であると報告されています51)。H. pylori除菌療法の直後で、上部消化管症状がある人に対しては、併用薬の状況によっては、考慮できるケースがあるかもしれません(とはいえ、積極的に使える状況を想定することはなかなか難しいですが......)。 《トロキシピド》 トロピシミドは胃粘膜保護作用を有し52, 53)、内視鏡的に観察された胃炎の治癒効果は、ラニチジンよりも優れていることが報告されています54)。現時点では質の高いエビデンスに乏しく、H2受容体拮抗薬と比較して優れていると結論することはできませんが、H2受容体拮抗薬の使用が勧められないケースにおいて、優先的に考慮できる薬剤かもしれません。 《ゲファルナート》 ゲファルナートは、びらん性胃炎患者の消化不良症状に対してスクラルファートよりも高い有効率であることが報告されています55)が、十二指腸潰瘍の治癒効果はシメチジンに劣ります56)。とはいえ、H2受容体拮抗薬の使用が勧められないケースにおいては、スクラルファート、トロキシピドと並んで優先的に考慮できるかもしれません。 ■制酸薬:炭酸水素ナトリウム/水酸化マグネシウム(③胸焼け、④逆流症状、⑤上部食道の不快感) 炭酸水素ナトリウムや水酸化アルミニウムマグネシウムは胃内Phを上昇させるため57)、胃酸分泌過多による上部消化管症状の緩和効果が期待できます。その作用はファモチジンよりも速いと考えられますが、効果の持続という観点から劣ります58, 59)。すぐにでも胃のむかつき症状を改善したい場合、制酸薬は効果的と言えますが、症状の予防という観点からすればH2受容体拮抗薬に劣るでしょう。マグネシウムが含まれている製剤を選択する場合には、腎機能や他の酸化マグネシウム製剤の服用状況、また相互作用の観点から抗菌薬(キノロンなど)を服用していないかどうかについても注意したいところです。 ■漢方(①消化不良、②腹部膨満感、⑤上部食道の不快感など) 上部消化管症状へ漢方薬の効果を期待できるメカニズムとして抗酸化作用、消化管粘膜の増殖促進作用、胃酸産生の抑制作用、H. pyloriに対する抗菌活性などが挙げられます60)。なお、上部消化管症状に対する甘草瀉心湯や人参湯については、人を対象とした質の高いエビデンスを見つけることができませんでした。 《安中散》 安中散の構成生薬であるウイキョウに含まれているアネトールは、齧歯類の胃内容排出遅延や胃の調節障害を回復することが報告されています61)。人を対象とした質の高い臨床研究は報告されていないようです。 《六君子湯》 六君子湯は、胃から分泌されるホルモンであるグレリンの食欲促進作用を増強すると考えられています62, 63)。実際、胃内容排出促進64)、機能性ディスペプシア患者における上部消化管症状の改善65, 66)などが報告されています。 結局のところどうしますか? 胃酸分泌過多が疑われる症状に対しては、ファモチジンを優先的に考慮することができると思います。ただし、胸焼け症状に対する即効性は、炭酸水素ナトリウムや水酸化マグネシウムを配合した制酸薬に劣るかもしれません。 H2RAの販売に当たり、高齢者では腎機能に配慮する必要があります。OTCとして市販されているH2RAの用法用量は、医療用製剤の半量で設定されているため、それほど神経質になる必要もないかもしれませんが、罹病期間が長い高齢糖尿病患者や、NSAIDsを長期的に服用している変形性関節症やリウマチを有する高齢者では、H2受容体拮抗薬の使用を避けるか、ごく短期的な使用にとどめるなど注意が必要です。 また高齢者では、抗コリン作用による有害事象リスクの観点から、ピレンゼピンやロートエキスが配合されていないものを選ぶとよいかもしれません。特に、ピレンゼピンは市販薬の用量設定で消化管症状の改善効果が期待できるかは明確でなく、積極的に勧めるべき強い根拠はないように思います。 H2RAの使用が難しいケースでは、胃粘膜保護薬が配合された総合胃腸薬を考慮できます。多数ある胃粘膜保護薬ですが、質の高いエビデンスは少なく、その臨床効果について、決定的な差異を論じることは難しい印象です。とはいえ、『消化性潰瘍診療ガイドライン 2015(改訂第2版)』 でもその使用が推奨されているスクラルファートは優先的に考慮できるように思います。漢方製剤を希望するのであれば、基礎的な研究データが充実していること、方法論的な質は必ずしも高くはないものの、複数の臨床研究が報告されている六君子湯は選択候補になるでしょう。 今回の症例では、午前中に上部消化管症状が出るとのことでした。もう少し詳しく話を聞いてみると、朝食を取る習慣がなく、コーヒーを毎日飲んでいるとのことでした。朝にコーヒーを飲まないと、頭がすっきりしないのだそうです。したがって、本症例では午前中は胃内容物がほとんどなく、胃内の酸性度が高まっている可能性があります。40歳代男性、消化管出血を示唆する症状や嘔気・嘔吐、発熱がないこと、他に治療中の疾患もないことからファモチジン含有製品で経過を見るよう勧めるのは、大きな誤りではないかもしれませんね。 【参考文献/脚注】 1) Am J Med. 2010 Apr;123(4):358-66.e2. 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