【解説】抗がん薬投与中の患者のトイレ 抗がん薬投与中の患者さんにどう対応したらよいか 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ウィズサポ/株式会社ジョヴィ川村 和美 患者さんの望みに応えるか、医師の指示に従うべきか...。どのように判断したら適切なのだろうとモヤモヤしたことはありませんか? とりわけ、"倫理的判断"に迷う場面においては、直感に基づく判断をせず、そのケースをさまざまな側面から幅広く検討し、より望ましい決定をするというプロセスが重要になります。 今回は、トイレの二度流しという院内ルールに傷つく抗がん薬治療中の患者さんにどう対応したらよいか分からないというケースです。 このケースの詳しい状況説明や、薬剤師が倫理的に判断するために必要な5つの視点からの解説はこちらに掲載しています。※(関連記事)「私はバイ菌みたいです...」 それぞれの対応は望ましい? このケースを考える上で大切な、5つの視点から解説していきます。※(関連記事)倫理的に判断するための5つの視点とは? Jさんだけではなく、入院患者さん全員に従ってもらっている病院の規則なので、どうかご理解いただきたいと丁重にお願いする。 この方法は、薬学的な視点、患者さんの視点、QOLの視点が特に欠落しています。ルールを守ることが目的になってしまっており、本当にそれが必要か検証してみようという科学者の視点が失われています。 患者さんを悲しみから救いたいという医療者の気持ちも見られないような気がします。どんなに丁重にお願いしたところで、Jさんが納得することはないでしょう。退院まで、「嫌だけれど二度流しするしかない」「仕方ない」とストレスを抱えたまま過ごさなくてはなりません。 抗がん薬は効果が高く、Jさんの治療に必要な薬剤である。同時に、毒性を持つため、医療従事者や他の患者さんの健康にも影響を及ぼすことをJさんにわかりやすく説明する。 この方法は、まずもって必要ではありますが、伝え方によっては患者さんの視点、関係者の視点、QOLの視点が不足することがあるでしょう。この薬剤がJさんの治療にいかに必要で、どんなメリットがあるのかを分かりやすく説明できなければ、Jさんが治療に前向きになるよう促すことはできません。 まず自分の治療に前向きになった後で、他者に対する抗がん薬の毒性の可能性を理解すれば、Jさんが主体的に「それはダメだ」「他者への害を避けたい!」と考えるでしょう。 トイレの一度流しと二度流しでの被曝の可能性の違いを検証し、その結果から、流す回数を決定する。 この方法は関係者の視点、状況の視点が、特に不足していると思います。可能性の違いを検証し、その科学的根拠から判断しようとする姿勢は望ましいと考えます。しかし、自分勝手に施設の方針を変えると、他の患者や医療従事者を含めた病院全体の混乱を招く可能性があります。 関係者と十分に話し合い、どのような対応が適切か検討した上で、院内の方針として決定すべきです。 全患者にアンケートを実施し、不満に感じている患者さんが多いなら、トイレ二度流しのルールについて見直す。 この方法は、薬学的な視点と関係者の視点の不足が気になります。Jさんのように感じている患者さんが他にいるかもしれないという着眼点と、患者さんの声を可視化しようとする試みは重要です。 しかし、アンケートで二度流しが嫌だと考える患者さんがどんなに多かったとしても、用いているのは被曝の可能性が高い薬剤です。アンケートの結果のみをもって、このルールを安易に変更することはできないでしょう。 被曝の可能性よりも患者さんが傷ついている事実を重視すべきだと思うので、二度流す必要はないとJさんに伝える。 この方法は薬学的な視点、関係者の視点、状況の視点が欠落しています。患者さんの気持ちを重視するということは、医療従事者にとって大切な視点ですが、感情に任せた判断は場当たり的な対応を招きます。関わる医療者の対応にばらつきがあれば、患者さんはどうしたらよいか迷ってしまいますし、医療者に信頼を置くこともできません。 望まれる対応は? 本ケースのポイントは、二度流しの必要性を患者さん本人が納得できるように説明できるかどうかにかかっています。 「そんなに害のある薬を投与されているなんて」という不信感に対しては、Jさんにとって必要で有益な薬剤であることを理解してもらえるような説明がまずは求められます。Jさんが「私にはその治療が必要不可欠だ」と理解し、治療を受け入れられるように支援することが最優先になされなければなりません。 その上で、すべての抗がん薬に二度流しの必要がない一方、他者への影響が考えられる薬剤もあることを伝えます。抗がん薬によって危険度は4ランクに分類されている点からも、抗がん薬を使用している患者さんすべてに二度流しの必要性があるものでもないと思われます。 とはいえ、薬ごとに分けてそれぞれの患者さんにお願いすることは難しいため、医療従事者の対応もトイレの貼り紙も一律の案内にしていることを伝え、お詫びをしてもいいかもしれません。 Jさんの治療を最優先にしながら、病院を運営する上での事情や他者に影響の可能性がある薬剤が存在するということを丁寧に説明すれば、きっとおわかりいただけると思います。 ただ、トイレの水流が及ぶ範囲にとどまった排泄物は、二度流せばより多くの水で押し流されそうですが、水流が及ばない部分に付着した排泄物は、清掃するまでそこにとどまります。気化したりエアロゾル化する物質であれば、取り除かれるまでに飛散する可能性があります。特に、尿は飛び散って広範囲に付着する可能性が高いため、二度流しを強制する根拠が乏しくなるように感じられます。 薬剤師が科学の知識を活用し、そのあたりの調査を行って、皆が気持ちよく納得できるルールを提案できたらすばらしいと思います。 対応策のアイデア まずは、現在の治療がJさんにとって必要であることを理解してもらうすべての抗がん薬に二度流しの必要はないが、他者への影響が考えられる薬剤もあると説明する病院としては個別対応が難しく、一律のルールとしている点をお詫びする二度流しの有効性などを科学的に検証した上で、望ましい対応やルールを提案できるとなおよい 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×