鎮痛薬~腰痛にはどんな薬がイイですか?- 後編 医療法人社団徳仁会中野病院 青島周一 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「鎮痛薬~腰痛にはどんな薬がイイですか?」 日本における腰痛の有症割合と特徴 症状の持続期間に基づく腰痛の分類 急性腰痛と慢性腰痛の危険因子 市販薬で対応できるのはどのようなケース? 市販で購入できる主な鎮痛薬 腰痛の基本的な治療方針 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ 【外用薬】ロキソニンSテープ、ロキソニンSテープL、ロキソニンSパップ、ロキソニンSゲル(第一三共ヘルスケア)/バンテリンコーワパップS、バンテリンコーワ液EX W、バンテリンコーワ液S、バンテリンコーワクリームEX、バンテリンコーワゲルEX(興和)/サロンシップ インドメタシンEX(久光製薬)/リフェンダID0.5 %(タカミツ)/サロンパスEX温感(久光製薬)/パテックスフェルビナスターA シップ/(第一三共ヘルスケア)/リフェンダフェルビナク、リフェンダFBテープa(タカミツ)/フェイタス5.0、フェイタス5.0温感、フェイタスローション、フェイタスチックEX(久光製薬)/ゼノールエクサムSX、ゼノールエクサムFX(大鵬薬品工業)/アンメルツゴールドEX(小林製薬)/オムニードケトプロフェンパップ(帝国製薬)/ボルタレンEXテープ、ボルタレンEXゲル、ボルタレンACゲル、ボルタレンACローション(グラクソ・スミスクライン)/フェイタスZジクサス、フェイタスZaジクサス、フェイタスZaジクサス温感、フェイタスZaジクサスゲル(久光製薬)/パテックスうすぴた湿布(第一三共)/のびのびサロンシップ(久光製薬)/ハリックス55EX 冷感A、ハリックス55EX 温感A(ライオン)/サロンパス-ハイ(久光製薬)/ニューアンメルツヨコヨコ(小林製薬)/サロンパスローション(久光製薬)/ニューアンメルツゲル(小林製薬) 【内服薬】ロキソニンS(第一三共ヘルスケア)/イブA錠(エスエス製薬)/タイレノールA(武田コンシューマーヘルスケア)/ラックル(日本臓器)/コリホグス(小林製薬) 市販で購入できる主な鎮痛薬 腰痛症状の緩和に効果が期待できる市販薬は基本的には非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)です。主な市販の外用薬を【表4】に、内服薬を【表5】まとめます。なお、NSAIDsの内服薬に関しては「鎮痛薬~どんな頭痛薬がイイですか?」も参照いただけたら幸いです。 【表4】腰痛に効能を有する主な外用薬 【表5】腰痛に効能を有する主な内服薬 (表4、5とも筆者作成) 腰痛の基本的な治療方針 急性腰痛と慢性腰痛では治療方針が大きく異なります【表6】。急性腰痛では痛みに応じた活動維持もしくはNSAIDsの効果が期待できます。ベッド上の安静は、むしろ疼痛を悪化させる可能があり注意が必要です21,22)。 【表6】腰痛に対する治療効果 (参考文献17より筆者作成) ■NSAIDs・アセトアミノフェン 腰痛に対するNSAIDsの有効性について、ランダム化比較試験65研究(解析対象1万1,237人)を対象としたシステマチックレビュー23)が報告されています。このレビューによると、プラセボと比べて症状改善に有意な効果が得られる一方、有害事象は多いという結果でした。また急性腰痛については、NSAIDsはアセトアミノフェンよりも有効であるとはいえないとするエビデンスがあると報告されています。なお、急性腰痛に対するアセトアミノフェンの効果を検討したプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験24)では、プラセボとアセトアミノフェンで症状回復までの日数に差がないことが示されています。副作用リスクの観点から見ればアセトアミノフェンにアドバンテージがありそうですが、腰痛症状緩和に対する効果についてはあまり明確ではないようです。 NSAIDsの内服薬と外用薬で効果にあまり差がないと考えられ25,26)、状況に応じてどちらでも選択が可能です。一般的に消化器系の有害事象は内服薬で多く、皮膚障害は外用薬で多いと考えられます26)。また、腎機能(年齢)や併用薬、光線過敏なども視野に入れるとよいでしょう。光線過敏症といえばケトプロフェン27)が有名ですが、他のNSAIDsでも起こりうることに留意しましょう28~30)。 NSAIDsの種類によって、鎮痛効果に差はあるのでしょうか。13報のコクランレビュー(約3万700人を対象とした206件の研究)を対象としたレビュー論文31)によると、局所ジクロフェナクとケトプロフェンには、捻挫や筋挫傷などの急性疼痛緩和に優れていることを示唆する質の高いエビデンスがあると結論しています。 また、変形性関節症に対する疼痛効果について、36件のランダム化比較試験(研究参加者7,900人)と7件の観察研究(同21万8,074人)を対象にしたシステマチックレビュー・ネットワークメタ解析32)によれば、ジクロフェナクパッチ製剤が疼痛緩和に最も効果的な局所NSAIDであったと結論されています。総じてジクロフェナク、ケトプロフェンが鎮痛効果に優れることが示唆されていますが、光線過敏症のリスクを考慮すると、ジクロフェナクパップ製剤を差し置いてまでケトプロフェンパッチ製を積極的にお勧めする根拠は少ないように思います。 ■筋弛緩薬 腰痛に対する筋弛緩薬の効果について、救急診療部を受診した急性で外傷のない腰痛患者240人を対象としたランダム化比較試験33)が報告されています。被験者は必要に応じてナプロキセンとメトカルバモール(筋弛緩薬:国内未承認)を服用する群、必要に応じてナプロキセンとオルフェナドリン(抗コリン薬:国内未承認、筋肉痛の治療に用いられる)、必要に応じてナプロキセンとプラセボを服用する群の3群に割り付けられ、退院から1週間後の身体機能スコアが評価されました。解析の結果、身体機能スコアは3群間で有意な差は認められないという結果でした。 コリホグス®にはその名の通り、筋弛緩作用のあるクロルゾキサゾンが含有されています。しかし、同薬の腰痛に対する効果は不明であり、その筋弛緩作用についても、正確な作用機序が分かっておらず、鎮静作用がもたらす主観的な効果にすぎない可能性もあります34)。転倒やふらつきのリスクになりうることからも、積極的にお勧めできる根拠には乏しいように思います。 ■運動療法 慢性腰痛には社会心理的要因も強く影響しているためか、薬物療法単独で疼痛コントロールをすることが難しいケースもあるでしょう。慢性腰痛では薬剤だけでなく運動療法なども考慮したいところです35)。適度な運動療法やマッサージなどを組み合わせた集学的な治療によって、症状の緩和が期待できるかもしれません36)。なお運動療法は、通常の活動維持、ストレッチ、筋力強化訓練、有酸素運動(ウォーキング、サイクリング)、腰部安定化運動などが代表的ですが、ヨガ37)やマインドフルネス38)についても、疼痛の緩和効果が期待できるかもしれません。 結局のところどうしますか? 総じて腰痛に対する薬物治療の効果はそれほど大きいものではないように思います。腰痛は個人の健康関連問題だけでなく、社会心理的要因や職業環境なども影響している多因子的な身体現象だからです。そのような中で、OTC医薬品薬による疼痛コントロールのキーポイントは、プラセボ効果をいかに引き出すかということかもしれません。腰痛患者97人を対象にしたランダム化比較試験39)では、プラセボと分かった上でプラセボを服用しても、治療なしと比べて、腰痛症状や機能障害が改善することが報告されています。 NSAIDsの鎮痛効果にプラセボ効果を上乗せしつつ、急性腰痛であれば痛みに応じた活動維持をアドバイスし、慢性腰痛では運動療法に関する説明をしてもよいでしょう。急性、亜急性腰痛においては患者教育により、患者に長期的な安心感を与えることが示されています40)。社会心理的要因による腰痛の慢性化リスクを低下させる上でも、患者とのコミュケーションは大切な治療の1つといえるかもしれません。 また今回のケースで質問があったように、温感湿布と冷感湿布の選択については意見が分かれるところかと思います。腰痛症状の緩和に関して、暖めた方がよいのか、冷やした方がよいのか、明確なことは分かっていません41,42)。慣例では急性腰痛に冷感湿布、慢性腰痛に温感湿布という使い分けがあるようですが、その根拠は曖昧です43)。とはいえ、本人が「冷えると痛む」と言うのであれば温感湿布を勧めるのが妥当でしょう。今回のケースではジクロフェナクを配合した温感湿布は優先的に考慮できると思います。 【参考文献/脚注】1) 厚生労働省.平成 28 年 国民生活基礎調査の概況2) Best Pract Res Clin Rheumatol. 2007 Feb;21(1):77-91. 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