肺MAC症の治療の定説が変わる

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研究の背景:「喀痰培養陰性化から12カ月」に隠された意味

 肺MAC(Mycobacterium avium complex)症の治療期間は、万国共通で「喀痰培養陰性化から12カ月」とされている。この基準は2007年の米国胸部学会(ATS)/米国感染症学会(IDSA)のガイドライン(Am J Respir Crit Care Med 2007;175:367-416)に記載されているが、根拠に乏しく、これによってどの程度再発を抑制できるのかもはっきりしていない。

 1年以上排菌がなくなった後の再排菌は、再発ではなく"再感染"であることが多いという報告(Chest 2014;146:276-282)があり、呼吸器内科医の間では「2回目のMACは再感染」という見解が浸透しつつある。

 肺MAC症の治療を受けた患者466例のアウトカムを調べた報告(J Infect Chemother 2017;23:293-300)によれば、微生物学的再発率は排菌陰性化から15カ月未満の治療を受けた患者に偏っていたとされている。

 そして、線維空洞型や気管支拡張を有する肺MAC症は一般的に予後不良である(Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 575-583Eur Respir J 2020;055:1900798)。これは肺の構造改変が進むほど、正常に換気できる肺胞が減り、続発性の感染症が起こりやすいためである。

 前記の理由から、エキスパートの間では、有空洞症例の再発率(再感染率)が高いので、空洞が残っている場合は治療期間を9カ月~1年程度長めに見積もってもよいという意見が広まっていた。しかし、エキスパートオピニオン以上の結論は出せていなかった。

 そんな中、日本の抗酸菌感染症診療のメッカである複十字病院(東京都)から、興味深い研究結果が報告された(Chest 2020年1月16日オンライン版)。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』、『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

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