COPD患者のケアと急性増悪への対応 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ここに提示する症例は、私たちが実際に経験したものです。先生方はこの症例へどのようにアプローチされるでしょうか? 選択肢を選んで頂いた後に私たちが行った対応をお示しますが、それが適切だったか否かは分かりません。どういった対応が最も良かったのか、一緒に考えて頂けると幸いです。 症例:89歳、男性 現病歴: X年9月、慢性閉塞性肺疾患(COPD)急性増悪によるCO2ナルコーシスで隣市の基幹病院へ入院。一時、気管挿管・人工呼吸管理がなされたが軽快し、X年11月に退院した後は、自宅から近い180床の病院(呼吸器専門医は常駐していない)に紹介され、外来を定期受診することとなりました。 既往歴: 高血圧症、慢性腎臓病、高尿酸血症、便秘症、85歳ごろより物忘れがある 常用薬:テルミサルタン(40mg)1日1回 アムロジピン(10mg)1日1回 アロプリノール(50mg)1日1回 酸化マグネシウム(250mg)1日1回2錠 フルチカゾンプロピオン酸エステル・ホルモテロールフマル酸塩 1回2吸入を1日2回 嗜好品:喫煙20本/日×40年(57歳以降は禁煙中) 家族背景: 妻は逝去し独居。近所に住む長女が毎日訪れている 介護保険: 要介護1、デイサービス3回/週 基本的日常生活動作(BADL): 移動 杖歩行 食事 常食、自立 排泄 トイレ、ときどき間に合わずに尿失禁あり 整容 自立 入浴 介助、デイサービスでのみ 長谷川式認知症スケール:21点 Q1:以下のうち、優先順位が最も低いと思われる臨床介入は、どれであると考えられますか? 私たちが選んだ対応 ① 嚥下機能評価は、嚥下障害を疑う経過・所見に乏しいと判断し、行いませんでした 【経過1】 安定期COPD管理として、まず外来で以下を確認しました。まず吸入手技については、認知機能が低下している上に一人暮らしでしたが、家族が毎日介助され、的確に行えていました。今回の入院時は救命処置として気管挿管・人工呼吸管理がなされましたが、今後は希望しない旨を述べられました。 肺炎球菌ワクチンは、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)の両方を接種済みであり、秋にはインフルエンザワクチンの接種を施行しました。栄養評価を行ったところBMIが20以下であり、外来で定期的な栄養指導を開始し、脂質の多い組成を考慮した食事内容としました。デイサービスへ楽しく通所されていたので、デイケアも組み入れ呼吸リハビリテーションも行う方針となりました。 X+1年の2月(90歳時)、数日前からの発熱・湿性咳嗽と呼吸困難・体動困難で、自院の外来へ救急搬送となりました。 <来院時診察所見> JCSⅡ-10、血圧160/68 mmHg、心拍数96 回/分 整、体温38.4 ℃、呼吸数38 回/分、SpO2 81%(RoomAir) 呼吸補助筋の使用あり、呼気延長あり 心音:2LSBで収縮期雑音を聴取、過剰心音なし 呼吸音 両側で減弱、明らかなwheeze聴取せず 四肢 両側足背にわずかな圧痕性浮腫あり(普段と同様) 初期対応として、酸素を0.5Lから開始し漸増するも、呼吸困難・呼吸数・SpO2の改善なく、3L鼻カニューラで呼吸困難は軽快し呼吸数30回/分、SpO2 93%となりました。 <検査所見> 一般採血:WBC7,200 /μL、Hb12.4 g/dL、Plt13.3×104 /μL、AST21 IU/L、ALT15IU/L、BUN34.6mg/dL、CRE1.75mg/dL、eGFR28.9mL/分/1.73m2、Na145 mEq/L、K4.8 mEq/L、Cl103 mEq/L、CRP 0.2mg/dL 動脈血ガス(FiO20.1):pH7.290、pCO2 62.6 mmHg 、pO2 73.2mmHg 、HCO3 34.1mEq/L 、AG12.8 インフルエンザ迅速検査:陰性 心電図:完全右脚ブロック 胸部単純CT:両肺野に明らかな浸潤影なし、胸水貯留なし Q2:長女から、本人の意向通り、気管内挿管・人工呼吸器装着を希望しないことを確認しました。治療方針についてどのように考えるでしょうか? 私たちが選んだ対応 ④ 非侵襲的陽圧換気(NPPV)療法、副腎皮質ステロイド点滴を行う COPD急性増悪と診断。軽度の意識障害を認めましたが、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、副腎皮質ステロイド点滴を行いました。具体的には、慎重な観察の下で第1病日NPPVを装着することとしました。プレドニゾロン40 mg/日点滴、短時間作用型β2刺激薬(SABA)の定時吸入で治療を開始しました。症状緩和の上で、塩酸モルヒネを念頭に置きつつ経過を見たところ、呼吸状態は徐々に改善し第7病日にNPPVを離脱することができました。 【経過2】 早期からリハビリを行いましたが、杖歩行から車椅子レベルのADLに低下してしまい、退院後しばらくは長女が本人宅に同居することとなりました。介護保険の区分変更申請を行い、訪問看護とショートステイ導入の方針とした後、第39病日(X+1年3月)に自宅退院しました。 退院後、徐々に自宅内では歩行可能なADLに改善傾向が見られましたが、X+1年5月に呼吸困難で再度、救急搬送となりました。診察・検査所見からはCOPD急性増悪が疑われ、動脈血ガスのpH 7.370/pCO254.2で、NPPVまでは要することなく、プレドニゾロン点滴・SABA吸入と低流量酸素投与のみで呼吸状態は改善し、酸素療法を離脱することができました。 Q3:退院に当たり他に臨床介入を行うとしたら、以下のどれを優先するでしょうか? 私たちが選んだ対応 ① 服薬アドヒアランスを確認する 在宅療養の継続には、服薬アドヒアランスを確認することが必須であると考えました。 【経過3】 リハビリや施設入所の利益もあると考えられましたが、本人の希望もあり自宅退院となりました。在宅酸素はCO2ナルコーシスのリスクも踏まえ導入せず、安静は筋力低下につながり不利益が大きいと判断しました。 定期外来で確認した際には、吸入手技は問題ありませんでした。しかし、訪問看護師が自宅で確認したところ、吸入時刻に"ウトウト"していると、吸入がスキップされていることが分かりました。そこで、吸入時刻に幅を持たせ「午前中に1回」「16時から就寝までに1回」と、十分に覚醒しているタイミングで施行するように指示を変更しました。幸い、その後は急性増悪なく経過しています。 Clinical Knowledge COPDのリハ栄養 COPDにおいて、栄養状態は重要な予後決定因子です。しかし栄養補助療法単独では十分でなく、運動計画とともにカロリー摂取量を増加させることが勧められます。身体活動と呼吸リハビリテーションプログラムを行うことで運動耐容能が改善し、呼吸困難と疲労が減少するとされています1)。外来で簡便に施行可能な栄養アセスメントツールとして主観的包括的栄養評価(SGA; subjectve global assessment)、MUST、MNAなどが開発されており、中でもSGAは、もともとは外科入院患者を対象に作成されたものですが、急性期入院患者から在宅患者まで広く使用されています。 その他、リハ栄養以外の安定期COPDにおける薬物療法以外の管理として、禁煙・身体活動・ワクチン接種が必要で、本症例でも留意しました。 表. 主観的包括的栄養評価(文献2より引用) 吸入薬のアドヒアランス COPDの薬物療法においては吸入薬が中心的な役割を担いますが、特に高齢者においては、確実に手技を実施することが困難な場合があります。その理由として、①吸気量・吸気流速の低下②上肢筋力・握力の低下③認知機能・理解力の低下-などが挙げられており3)、本人だけでなく家族や介護者に対する手技指導が必須となります。 本症例では、外来で確認した手技指導や家族の支援に問題ないと判断されましたが、訪問看護師の報告から自宅の生活リズムとのズレがあるために吸入が不十分であったことが判明し、多職種による支援の重要性を再確認しました。 COPD急性増悪に対するNPPV選択・治療成功の予測 本症例は、気管挿管・人工呼吸管理を希望しない患者に対してNPPVを選択し、幸い治療が成功しましたが、臨床的にはNPPVを選択するか否か非常に悩ましかったケースです。NPPVは、気管挿管下の人工呼吸の導入や、死亡率を低下させることが期待されますが、どのような症例でNPPVを選択すべきかについては不明確な面も多いと考えられます。 これまで検討された、COPD急性増悪に対するNPPV選択・治療成功に対する、言わば「予測モデル」では、APACHE Ⅱscore、意識レベル、呼吸数、動脈血pHなどとの関連が明らかになっています4,5)。しかし、比較的少数あるいは単施設での検討に限られている上に、本症例のような「高齢者」「一般病院(非ICU管理)」においては、より不明な現状であり、予測の的中には限界があります。今後、高齢者に対してICU管理でない場合に、どこまでNPPVを考慮するべきかは、より切実な臨床問題となると考えられ、その治療成功のために「予測モデル」が明らかになることが望まれます。 文献 1)GOLD日本委員会. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(2011年改訂版) 2)葛谷雅文. 高齢者の低栄養. 老年歯科医学 2005; 20:119-123 3)岩城基. 高齢者呼吸リハビリテーションの実際. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2008. 18:223-226 4)Confalonieri M, et al.A chart of failure risk for noninvasive ventilation in patients with COPD exacerbation. Eur Respir J 2005; 25:348-55 5)西口博憲、他. 80 歳以上の高齢者における非侵襲的 陽圧換気(NPPV)の成否と予測因子.日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2012; 23: 210-213 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする × コメント一覧(件) 人気順 新着順 ※ コメントはログイン後に閲覧できます ※ コメントはログイン後に閲覧できます