国家試験で考えるコロナ検査問題

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科
井原 裕

Illustration:kazuto hashimoto

 新型コロナウイルスのPCR検査の是非をめぐって議論が紛糾しています。これを見て、国家試験を思い出した人も多いことでしょう。最近では、2016年の第101回薬剤師国家試験に次の問題が出題されています。

 ある疾患Xは、日本人の有病率が0.2%である。Xに対する疾患マーカーMは、Xに罹患した患者において99%の確率で陽性を示すが、1%の確率で陰性を示す。また、Xに罹患していない患者では2%の確率で陽性を示し、98%の確率で陰性を示す。ある日本人患者が疾患マーカーMで陽性を示したとき、その患者がXに罹患している確率(陽性予測値)として、最も近い値はどれか。1つ選べ。

 1 9%
 2 25%
 3 73%
 4 97%
 5 98%

 このタイプの問題は、毎年のように出題されています。解き方も、皆さん、ご記憶だと思います。

 のような4×4の升目をつくって、そこに疾患のあり・なし、検査陽性・陰性の2×2の計算式を割り振る。では、分かりやすくするためにサンプル数を1,000人として計算しています。陽性予測値は2÷22≒0.09。よって、正解は1ということになります。

 この問題では、Xに罹患していない患者で陽性が出る確率はわずか2%しかなく、したがって「陽性が出た場合、本当に罹患している」と直感的に思いがちです。ところが、有病率が0.2%というまれな疾患の場合、罹患者の500倍近い非罹患者がいる。その結果、非罹患者中のわずか2%の検査陽性者の持つ意味が大きくなって、結果として検査陽性・非罹患者数が検査陽性・罹患者数より多くなってしまうという点が、この問題の陥穽だといえます。すなわち、有病率が低いとき、陽性予測値(陽性的中率)は、特異度から予想されるイメージを裏切るのです。

 新型コロナウイルスのPCR検査の場合、感度が70%程度しかないとされています。PCR検査をして陽性患者7人が見つかっても、同時に「陰性だった。よかった」と安心してしまう3人の感染者が出てしまうことになります。

 一方、一般人口における有病率は現時点では低いと思われますので、それに伴う偽陽性者の発生が危惧されます。ただ、山梨大学病院で370人の無症状患者にPCR検査を行ったところ、全員が陰性でした。このことは、特異度が極めて高いことを意味します。それというのも、もし、特異度が99%しかないとすれば、370人全員が非感染者だとしても、3ないし4人の偽陽性者が出たはずだからです(全員陰性となる確率は、0.99370 = 0.024と、極めて低い)。偽陽性がゼロだったわけですから、山梨大学病院はおそらく全員非感染であり、かつ検査室でのコンタミネーションもなく、偽陽性の出る余地がなかったものと思われます。ただし、大規模検査を行った場合、当然感染者が出ます。そこで、もしコンタミネーションのような事故が起これば、特異度が一気に下がり、その結果、偽陽性が大量に出るはずです。

 ともあれ、国家試験レベルの知識でも、大規模なPCR検査を行うことに意義が乏しいことは分かります。皆さんも、有病率、サンプルサイズをいろいろ変えて、Excelで試算してみてください。多数の偽陰性感染者が町を歩く可能性、多数の偽陽性非感染者が自由を奪われるリスク、この2点が実感として理解できます。そして、この2点こそ、声高にPCRを主張する論客が気付いていない問題なのです。

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