ドラマの中の薬剤師

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獨協医科大学埼玉医療センター こころの診療科
井原 裕

Illustration:kazuto hashimoto

 「未来においてドラマのトピックとして成功を収める可能性があるのは医療であろう」と、メディア研究の第一人者ハーバート・マーシャル・マクルーハン(1911-1980年)が予想したのは、1964年のことでした。

 日本は前回の東京オリンピックの年で、テレビ番組のほとんどは白黒でした。こんな時代に医療ドラマの可能性を予想していたとは、驚くべき先見の明といえます。

 もっとも、既に米国ではテレビドラマ『ベン・ケーシー』(1961-1966年)が放映されていました。西部劇のドンパチばかりの荒くれたテレビ界にあって、さっそうと活躍する青年医師の姿は、さぞや清新なイメージで受け取られたことでしょう。

 日本では『白い巨塔』の映画化が1966年で、主演は田宮二郎。最初にテレビドラマ化されたのは1967年で、主演は佐藤慶でした。

 その後、田宮二郎が自身を主役として再度のドラマ化を希望し、1978年に放送が開始されました。収録終了後、田宮二郎は猟銃自殺を遂げました。まだ、最後の2話分は放映されていませんでした。

 最終回のラストシーンは、がんに侵された財前五郎教授を演じる田宮二郎の鬼気迫る表情、白い布をかけられストレッチャーで運ばれる姿、モーツァルトの「ラクリモーサ」の不気味なしらべ、そして最後に「完」の文字が出た後、本放送では「田宮二郎さんのご冥福をお祈りいたします」とのテロップが挿入されたといわれています(Wikipediaより)。

 『白い巨塔』は、その後何度もドラマ化され、村上弘明、唐沢寿明、岡田准一らが財前五郎を演じていますが、田宮二郎バージョンを超える作品は、今後も出ないことでしょう。

 その後も『外科医有森冴子』、『Dr.コトー診療所』、『医龍-Team Medical Dragon』、『ドクターX~外科医・大門未知子』と医師たちを主人公としたテレビドラマは続きました。

 さて、薬剤師を主人公としたドラマはどうでしょうか。今年(2020年)に入って、石原さとみ主演の『アンサング・シンデレラ』が放映されました。歌われることも、讃えられることもないが、しかし、医療現場を陰で支えている存在として、薬剤師が描かれています。

 医師たちは『白い巨塔』は別として、医療ドラマは嘘っぽくて見ていられないものですが、薬剤師の皆さまにとって『アンサング・シンデレラ』はどうだったのでしょうか。プロからすればつくり物的なところが目立ったことでしょう。「本物の薬剤師はこんなことはしない」と思ったこともあるでしょう。でも、ご自身の仕事をちょっと別の角度から見ることのできる良い機会だったかもしれません。

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