最終回:医師が向き合う自分の「死」

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 私ががん医療の現場で働き始めたのは31歳のときであった。実は、それ以前は自分が死ぬことなどほとんど考えたことはなかった。それまで身を置いていた一般の精神科では、患者を看取る経験はあまりなかった。研修医時代にさまざまな疾患の患者を看取った経験はあるが、死は単なる疾患の結末としてしか捉えていなかったのかもしれない。治療に専念していたあまり患者の物語にまで着目する余裕がなかったからなのか、あるいはそれを言い訳にしていたのか、いずれにしても人生の文脈の中での死について、私は考えていなかった。そのころの私のように、多くの患者を看取っているにもかかわらず、真の意味での人の「死」を見据えないようにしている読者もいるのではないだろうか。しかし、がん医療の現場で精神腫瘍科医として働く上で患者のさまざまな物語に自然と触れる機会が増え、私の場合は人生の終わりとしての死を否応なしに意識することになった。そして、自分と同世代の人ががんにかかり、やがて亡くなっていく姿をたくさん見送る経験を重ねる中で、「自分にもいつ死が訪れてもおかしくない」と考えるようになった。

清水 研(しみず けん)

がん研究会有明病院 腫瘍精神科 部長

1971年生まれ。精神科医・医学博士。金沢大学卒業後、都立荏原病院(現・東京都保健医療公社荏原病院)での内科研修、国立精神・神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター)、都立豊島病院(現・東京都保健医療公社豊島病院)での一般精神科研修を経て、2003年、国立がんセンター(現・国立がん研究センター)東病院精神腫瘍科レジデント。以降、一貫してがん患者および家族の診療・ケアを担当している。2006年、同センター中央病院精神腫瘍科勤務。同科科長を経て、2020年4月より現職。日本総合病院精神医学会専門医・指導医。日本精神神経学会専門医・指導医。日本サイコオンコロジー学会登録精神腫瘍医。近著に『がんで不安なあなたに読んでほしい。 自分らしく生きるためのQ&A』(ビジネス社)、『もしも一年後、この世にいないとしたら。』(文響社)。

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