中止か継続か、コロナ患者のRA系阻害薬

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研究の背景:COVID-19とRA系阻害薬の接点、ACE2受容体

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がヒトに感染するためには、細胞表面に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)2受容体に結合する必要がある。高血圧症の治療薬として用いられているレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬であるACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)はACE2受容体を増加させる可能性があるため、もしかすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症に影響を与えるのではないか、とパンデミック当初は考えられていた。

 しかし、この1年間で複数のエビデンスが蓄積され、これらの薬剤の内服によって入院や死亡のリスクは上昇しないことが示された(N Engl J Med 2020; 382 : 2431-2440)。それどころか、カルシウム拮抗薬を用いている患者と比較すると、RA系阻害薬を用いている患者ではCOVID-19の入院リスクや死亡リスクが低くなる効果も示されている(Hypertension 2021; 77: 833-842)。

 さらに、BRACE CORONA研究において、軽症~中等症のCOVID-19入院患者でRA系阻害薬の適応がある場合には、ルーチンに中止するアプローチは支持されないと報告された(JAMA 2021; 325: 254-264)。これは中止する群としない群にランダム化割り付けした臨床試験であり、信頼性が高い結果と言えよう。

 現状得られるエビデンスから、RA系阻害薬を使用している患者がCOVID-19を発症したとしても、非使用者に比べて死亡リスクの増加は観察されず、同薬の継続が望ましいと考えられる。今回はこのことを示したメタ解析を紹介したい(JAMA Netw Open 2021; 4 :e213594)。

 ただし、最後にこの結論に相反するかもしれない研究も取り上げ、一石を投じてみた。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』、『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

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