男性不妊症治療のエビデンスは確かなのか?

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研究の背景:男性不妊症研究は実施が難しい

 私は、日本生殖医学会の生殖医療専門医である。生殖医療専門医で、男性不妊を担当している泌尿器科医は100人にも満たない。その中でも、大学教授のような名誉会員的な専門医ではなく、実際に現役の第一線で男性不妊の診療や研究をしている医師、研究者は数十人しかいないと思われる(とはいえ某国立大学教授で、現役バリバリの男性不妊症診療と手術をしている専門医もいらっしゃいます)。

 不妊症の原因の半分は男性にあるとされており、保険診療も適用となってきて、患者のニーズは少なくないと思われるが、男性不妊症は泌尿器科の中では超マイナー分野である。

 男性不妊症の臨床研究が難しいのは、とにかく確固としたエビデンスを創出しづらいのである。その理由として、①エンドポイントをパートナーの妊娠・出産に置くと、女性因子が大きく関与するため、パートナーの協力が必要となり研究を行いにくい、②エンドポイントを精液検査に置くと、一個人でも日によってパラメータ(精子濃度や運動率)が10倍変動する可能性があり、評価が難しい―といったことがある。

 不妊治療の目標はカップルの出産である。研究には男性だけでなく、パートナーの女性と生まれてくる子供を含めて最低3人の参加者が要るため、男性不妊症への治療介入の評価が非常に難しいのだ。そのため、大規模なランダム化比較試験(RCT)はそれほど多くなく、がん分野と比較するとエビデンスに極めて乏しい領域である。

 今回、過去10年間に行われた男性不妊治療に関するRCT 100件をレビューした論文を紹介する。

Outcome reporting across randomized controlled trials evaluating potential treatments for male infertility: a systematic review.

Michael P. Rimmer, et al. Hum Reprod Open. 2022 Mar 4; 2022(2): hoac010. doi: 10.1093/hropen/hoac010. eCollection 2022.

 ちなみに、この論文を読んだ理由は、私の留学先である米・イリノイ大学シカゴ校泌尿器科のCraig Niederberger先生の研究グループが出していたからである。Niederberger先生は、米国生殖医学会(ASRM)の機関紙「Fertility and Sterility」のChief editorをされていた私の大師匠だ(個人的な事情で申し訳ありません)。

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