研究の背景:ゼロコロナを唐突に撤廃した中国 日本医師会の松本吉郎会長は医学メディアの新年インタビューで、「平均寿命と健康寿命の差を縮めることで、社会保障費の抑制に寄与したい」と発言した。私も大賛成である。子供が素直に考えると、「平均寿命と健康寿命の差を縮める」方法は2つある。1つは「健康寿命の延伸」、そしてもう1つは「平均寿命の短縮」である。 もちろん、私はオトナの日本国民なので後者の発想などありえない。私が整形外科を選択した大きな理由の1つは、運動器医療が「健康寿命の延伸」に寄与できると考えたからである。当然、「平均寿命の短縮」に寄与できる診療科などないし、ここだけはあらかじめ強調しておくが、仮にあったとしても絶対に選んでいない。 生命維持臓器に関連する内科や外科の優秀な先生方のせい、じゃなかった、ご尽力のおかげで「平均寿命」はどんどん伸びていった。一方、われわれ整形外科はこれらの優秀な先生方に追いついて「健康寿命」を思うように伸ばすことはできず、いまや国民医療費はパンク寸前である。ロコモティブシンドロームという奇妙な和製英語を広める工夫もしたが、成果は出ないままである(関連記事「【2023年医学はこうなる】川口浩」)。 私自身の浅知恵による自業自得だが、今日も「死にたい」と繰り返す超高齢者をなだめながら外来をやっている。こんなはずではなかった(関連記事「健康寿命至上主義でよいのか」)。 さて、中国政府は昨年(2022年)12月7日にゼロコロナ政策を唐突に大幅に緩和し、事実上撤廃した。その転換ぶりは極端で、いまや日本よりも規制を緩和している。当然、感染は爆発した。インターネット上では、高齢者や基礎疾患のある人などが多く亡くなったという情報が連日伝えられており、映像メディアは葬儀場への車列を世界中に配信している。 今回紹介するのは、ゼロコロナ政策を撤廃した後の中国の感染爆発についての英国医師会雑誌British Medical Journalの誌説である(BMJ 2023; 380: 2)。