社会に二重悪の「運動器リハ通院」にメスを

国民医療費の浪費+労働力不足の元凶

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

 私は今まで、医療が国民の健康に寄与できたか否かを論点として議論してきた。すなわち、社会にとってプラスかゼロかの議論である。ところが、ゼロどころか社会にマイナスになっている医療が存在する。医学的裏付けがないままに、患者の訴え続ける自覚症状のみに基づいて漫然と続けられている運動器リハビリテーション通院である。

働けるのに働かない日本人がいる

 政府の有識者会議は今年(2023年)4月10日、外国人労働者の受け入れ策である「技能実習制度」の廃止を求める提言をまとめた。この制度は1993年に、「日本の技術を外国人に継承して発展途上国の人材を育成する」という国際貢献を建前としてスタートした。しかしながら、実態は目的とは大きく乖離しており、30年間にわたって労働力不足の安易な解決策として利用されてきた。

 トラブルが相次ぎ、諸外国から非人道的と批判され、日本の低賃金の温床にもなったこの制度の廃止に向けて、行政がようやく動き出したことは歓迎すべきである。しかしながら、廃止後にそれを補う労働力をどのように確保するかという問題は残されたままである。4月24日に政府は、「特定技能制度」の改正によって外国人の長期就労を可能とし永住者を増やす提案を出したが、これに対し「事実上の移民受け入れになりかねない」と脳天気に反対している自民党保守層がいる。彼らは、グローバル経済力の衰退によって平均賃金の低迷に加え円安が続く日本が、いつまでも外国人に選ばれる国でいられると思っているのだろうか。

 言うまでもなく、日本の労働力不足の主因は労働力人口の減少である。しかしその背後には、「働けるのに働かない日本人がいる」という根深い問題が潜在している。そして、それを正当化する理由として医療が利用されている、という不都合な真実がある。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は320編以上(総計impact factor=2,011:2022年9月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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