クローン病、トップダウン療法は標準治療か

バイオマーカーを使用したランダム化比較試験PROFILEより

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研究の背景:先行研究が現在の初期治療の指針となるかは疑問

 クローン病は、下部消化管を首座とする炎症性腸疾患であるが、全消化管に起こりうる。全層性炎症が持続すると狭窄や瘻孔を来し、外科治療が必要となることが少なくないため、早期からの有効な治療とモニタリングが重要とされる。

 これまでに、診断当初から生物学的製剤を使用する"トップダウン療法"が、従来治療(ステロイドや免疫調節薬)から開始して、無効な場合に生物学的製剤へと徐々に移行する"ステップアップ療法"よりも有効であると報告されている(Lancet 2008; 371: 660-667)。しかし、早期治療介入の重要性を認識しつつも、高額な生物学的製剤の過度な使用への医療経済学的配慮や保険制度上の制約から、多くの国では実臨床において、非高リスク症例に対しては従来治療から開始し、モニタリングしながら迅速にステップアップする"accelerated step-up(迅速ステップアップ療法)"がより現実的な治療戦略として実施されている(Gastroenterology 2021; 160: 2512-2556.e9)。ただし、迅速ステップアップ療法について検討した過去の研究は、10年以上前の標準治療が比較対象であったり、既に罹病期間が数年経過していたりするなど(Lancet 2015; 386: 1825-1834)、現在の実臨床で初期治療を開始する際の指針とすべきエビデンスなのか疑問の余地もあった。

 そこで今回、迅速ステップアップ療法とトップダウン療法の治療成績を比較した論文を紹介する(Lancet Gastroenterol Hepatol 2024年2月21日オンライン版)。本研究は、対象を特に診断初期のクローン病患者に限定し、遺伝子発現を主としたバイオマーカーを指標にリスクを層別化した場合の治療成績を検証するなど、非常に良くデザインされたランダム化比較試験である。

小林 拓(こばやし たく)

北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター センター長、消化器内科部長
北里大学医学部消化器内科学 准教授

1998年、名古屋大学医学部卒業。関連病院で研修の後、2004年より慶應義塾大学消化器内科特別研究員として炎症性腸疾患の研究に従事、2008年医学博士。2009年、米・ノースカロライナ大学博士研究員、2012年北里研究所病院消化器内科医長を経て炎症性腸疾患先進治療センター副センター長、2022年より現職。
日本消化器病学会(専門医・指導医・学会評議員・ガイドライン委員)、日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・学術評議員)などに所属。日本炎症性腸疾患学会では国際交流委員会、機関誌編集委員会委員長、European Crohn's and Colitis Organisationのクローン病ガイドライン委員を歴任。

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