ドクターズアイ 小林拓(消化器)

クローン病治療の最適化に新知見

英・多施設共同大規模コホート研究PANTSの長期成績より

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:免疫調節薬併用の是非や最適なタイミングは不明確なところも

 クローン病は持続する炎症から狭窄や瘻孔を来しうる原因不明の慢性炎症性消化管疾患であり、難治故に1990年代までは長期の入院や外科治療を避けることが困難であった。その予後を劇的に変えたのが、2002年にわが国で承認された抗TNFα抗体インフリキシマブである。次いでアダリムマブも市場に投入され、クローン病の予後は劇的に改善し、最近では手術施行率の低下も報告されるようになった(Clin Gastroenterol Hepatol 2021; 19: 2031-2045)。

 前回のDoctor's Eyeでも、生物学的製剤を早期から使用する"トップダウン"の有用性について考察したが(関連記事「クローン病、トップダウン療法は標準治療か」)、早期治療の有効性が画期的である一方で、抗TNFα抗体継続投与中に一定の確率で効果が減弱することが知られている。効果減弱は、薬剤の免疫原性に起因する抗薬物抗体の出現による薬物血中濃度の低下が主因であると言われており、これはヒト・マウスキメラ型抗体のインフリキシマブだけでなく、ヒト化抗体のアダリムマブにおいても起きることが知られている(Clin Gastroenterol Hepatol 2015; 13: 522-530)。

 免疫原性による抗薬物抗体の出現は免疫調節薬アザチオプリンの併用によって抑制しうることが分かっているため、特にインフリキシマブの開始に際しては併用が推奨されるが(N Engl J Med 2010; 362: 1383-1395)、アダリムマブとの併用の是非や併用の最適なタイミングなどは十分に明らかとなっていない。

 今回紹介する論文は、英国のリアルワールドにおける抗TNFα抗体の最適化・個別化に関して、さまざまな角度から詳細に解析された"力作"である(Lancet Gastroenterol Hepatol 2024; 9: 521-538)。

小林 拓(こばやし たく)

北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター センター長、消化器内科部長
北里大学医学部消化器内科学 准教授

1998年、名古屋大学医学部卒業。関連病院で研修の後、2004年より慶應義塾大学消化器内科特別研究員として炎症性腸疾患の研究に従事、2008年医学博士。2009年、米・ノースカロライナ大学博士研究員、2012年北里研究所病院消化器内科医長を経て炎症性腸疾患先進治療センター副センター長、2022年より現職。
日本消化器病学会(専門医・指導医・学会評議員・ガイドライン委員)、日本消化器内視鏡学会(専門医・指導医・学術評議員)などに所属。日本炎症性腸疾患学会では国際交流委員会、機関誌編集委員会委員長、European Crohn's and Colitis Organisationのクローン病ガイドライン委員を歴任。

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